短大に入学し
最初にしたアルバイトは
深夜のファストフード店員だった
国道沿いのその店は
日付が変わる頃にも
まばらに来客があった
バックヤードでの暇つぶしに
いつしか
煙草を吸うようになる
細身のメンソール
CMは
海外の綺麗な女優さんだったろうか
当時は
煙草を吸う=かっこいい
という図式が
私の中で出来上がっており
美味しさなんて構わずに
上手く煙をふかす練習をしていた
しだいにその煙は
気管を通り肺まで到達し
鼻からではなく
口から出てくるようになる
全身にニコチンが回り
にわかに手先が痺れるのが分かる
大人になった気でいた
高校の時に出会った
妖精のような友人
彼女もまた
細身のメンソールを吸っていた
その姿がかっこよく見えて
煙草の吸い方を覚えたのだった
周りからのイメージを
払拭したくて
ちょっと悪いくらいに
思われたくて
煙草の吸い方を覚えたのだった
深夜のバックヤードで
物思いにふけながら
いや
物思いにふけこむふりをしながら
むせこまないように
慎重に煙草をふかす
1mgから始まり
どんどん重たいものを求めていく
メンソールでは事足りなくなり
マイルドセブンから
マールボロにたどり着き
ソフトケースを軽く上下し
1本取り出した
ずしんと肺に響く
煙草をやめる理由もなく
数年間の喫煙生活は続いた
朝起きて
食後に
手持無沙汰な時に
飲みに行ったときに
バイトの合間に
気分転換に
吸う
1人暮らしをしており
誰にも咎められることはない
それはもう癖のようになっていて
簡単にはやめることはできず
禁煙・喫煙を繰り返していた
このままではいけない
煙草を吸うたびに
手を洗うのも面倒だし
吸い殻を消し忘れたのでは
と心配するのも嫌になった
お肌の老化を促進してどうする?
もともと
そんなに吸いたかったわけでもない
ただ
何となくかっこいいから
そんな理由だけで
吸い始めたのだから
もちろん
健康にも良くない
私
本当は吸いたくないのかもしれない
20代半ばで
きっぱりと煙草をやめた
あれから十数年
煙草がなくったって
どうってことなく生きている
もはや
自分が吸っていたなんて
忘れかけていたくらい
8回目の父の命日を迎え
父が煙草を吸っていた姿を思い出していた
セブンスター
あの小さな星がたくさん並んだ
ソフトケースが懐かしい
いつしか
父も病気を患い
きっぱりと禁煙に成功したのだった
高校の友人に
たばこ農家の娘がいた
親父さんたちは
喫煙後に
仁丹を口に入れるものだった
お客様の娘さんは
オーガニックの煙草を製造している
高齢の女性ながらも
ハイライトを吸っている方を知っている
私は
もう煙草を吸うことはないだろうが
愛煙家を否定するつもりもない
時には
喫煙から帰ってきた上司の
年季の入ったタバコ臭に
眉をひそめてしまうこともあるが・・・
不思議と
大好きな人のくゆらせる
煙草の煙は
私も
胸いっぱいに吸い込みたくなる
不思議と
大好きな人の煙草の香りは
大好きな香りに変わる
不思議と
大好きな人の煙草と同じ香りをかぐだけで
幸せになる
私って
なんて身勝手なのだろう・・・