ある夜のことだった。
お風呂から上がると、いつも駆け寄ってくる猫が来ない。何か胸騒ぎがし、各部屋を周り中の猫の名を呼んだ。家人にも、猫の所在を尋ねるが、一様にここにはいないよとの返答。
おかしい。
何気なく息子の部屋のカーテンをめくると、ちょうど猫の幅ほど、窓が開いていた。
やだ。ここから?出て行った?
息子、娘と懐中電灯を片手に家を飛び出し、手分けして家の周りや少し先の道路を捜索したが、姿はない。途中で出会った野良猫に声をかけても逃げられる。車の下にも、生垣の中にも、草むらの中にも、ゴミステーションにもいない。どこだ?
小一時間捜索し、対策を練り直した。
迷子猫捜索をしてくれる業者に依頼するか?
猫砂や餌を家に撒いてみる。
家猫はそう遠くに行かないらしい。
壁伝いに移動するらしい。
その情報をもとに、今度は家の裏手の通りを猫の名を呼びながらゆっくりと探した。自宅の斜め裏のお宅を通り過ぎたとき、微かに鳴き声が聞こえた。
引き返し、何度も名を呼ぶと、確かに聞こえる。弱々しい鳴き声。車の下から聞こえるが姿は見えず。
息子が合流し、車の下に潜り込むと、車体の下の部分に入り込んでいることを確認。
急いで餌を持ってきて、語りかけるが出てくる気配はない。数分格闘し、なんとか引っ張り出すことに成功した。
良かった。
大切なものを失うことは、なんとも言えない感情になる。きっと、飛び出してみたものの、怖くなって車の下に入り込んだのだろう。胸が張り裂けそうになるのを抑えて、探し回った。
名前を呼ばれて、返事をしてくれて良かった。名前をちゃんと分かっていたんだね。
朝を待って探そうかとも思ったが、時間が勝負。
捜索を諦めずに続けて良かった。
never give upだ。