90歳を過ぎてもレギンスにオーバーTシャツを合わせるようなおしゃれな女性。
好き好んで独り身を貫いてこられたわけではない。異母兄弟も従妹とも疎遠になり、身寄りのいない状況で相談が舞い込んできた。
物忘れの自覚は持っておられるが、今までの習慣となっている家事はできる。
しかし、新しいことは忘れてしまう。心臓が悪くなり薬が増えても、薬を飲むのを忘れる。定期通院を忘れる。心臓が悪いことを忘れる。
一人暮らしのため、事実確認も難しい。かといって、彼女の日常を知る者はいない。現状を誰に確認しようもない。
はて、どうしたものか・・。
入院するにも保証人が必要。
デイサービスを利用するにも緊急連絡先が必要。
施設に入るのも同様。
何をするにも、身元保証が必要になってくる。
どんな最期を迎えたいのか?
この質問は、信頼関係構築後でないとなかなか踏み込みづらい。この質問で警戒されては元も子もなく、慎重にタイミングを見計らう必要がある。
もし、延命が必要となった際の意思決定ができなかったら。
もし、身寄りのない、身元保証もないままに最期を迎えることになったら。
一体、誰が延命についての意思決定をし、葬儀の段取りや、納骨、遺品の整理、自宅の処分、財産の処分、スマホや生命保険の解約などすることになるのだろうか?
生活保護の方の場合は、保護課が一緒に動いてくれることもある。
自宅で逝去された際には警察も関与されるだろう。
それ以外の場合は・・・
一ケアマネには、荷が重すぎる。
主治医もご近所さんも、サービス事業所も、銀行も、役所でさえ、何かあるとケアマネは誰?と連絡が回ってくる。ご家族がいらっしゃる方は、ご家族へ方向性の決断を委ねることができる。身寄りのない彼女の場合は・・・
成年後見人や身元保証サービスへつなげる必要があるが、その必要性を彼女が判断できる状況なら良い。しかも、それらの利用には費用が発生する。無料で引き受けてくれるところなどない。もう少し、早い段階でそれらのサービスに結び付けることができたら・・・
大きく膨らむ風船を、時限爆弾を、隣の人に渡すゲームを彷彿としてしまう。大抵、最後はケアマネに渡されることが多い。
今までの彼女の人生を共に振り返り、長いとは言えない残りの人生をどのように過ごしたいのか、どのような最期を迎えたいのかを共有し、支援していく。
彼女との面談時、膨らむ風船を渡された私は、一瞬歯を食いしばり、覚悟を決めたのだった。
おひとりさまと言うけれど。