satoimo's diary

人生も折り返し地点を過ぎた。自分を大切にするためには...

ケアマネとは?

民家の軒先で

コンクリートの割れ目から生えている

時期を過ぎた猫じゃらし(エノコログサ)が

目に入った

 

喜んで下さるかな?

 

でも人の家のもの(猫じゃらし)を

こっそり抜いて持っていくのも

いかがなものか・・・

 

迷いに迷って

民家の前を何度も往復した

 

すみません

1本いただきます!

 

そう心の中で呟いて

枯れかかって水気のない猫じゃらしを

1本引き抜いた

 

枯れてはいるが

猫のしっぽらしさは

健在だった

 

なぜだか

きっと彼女は喜んでくれる

そんな気がしていた

今日はどんなだろう?

 

こんにちは

〇〇です

お邪魔してもよろしいですか?

 

木枠の窓をそっとノックする

 

・・・

 

もう

あの人には来ないでほしい

担当を代えてください

私の大事な

命の次に大事な

あの箱を返して

箱を返すまでは来るな

 

〇〇さんが計画を立てないと

サービスは受けられませんよ

代わるとしたら△△さんになりますよ

 

・・・。

 

午前中のやり取りを

ヘルパーさんから聞いていた

 

あの箱

 

女性が大切にしていたあの箱とは

連絡先が書かれていたというダンボール箱のことである

 

昨年の梅雨時

本人の同意を得て

(その時は同意を得たのだが・・)

ヘルパーさんと2人で

室内にある数百㎏のごみを

2回に分けて撤去させていただいた

 

数十匹の猫が出入りし

アナグマまでもが猫の餌目当てに入ってくる

 

もともと猫がいたところに

私が引っ越してきたのよ

 

彼女にとって猫たちは

心の拠り所であり

アナグマの侵入防止に戸締りをすると

猫の出入りができないからと

ある意味

自然のままに過ごされている

 

築100年近いのではないだろうか?

ジブリ作品を彷彿とさせる木造の一軒家

猫たちが畳や襖などいたるところで爪を研ぎ

何だか分からないごみが散乱している

疾患による倦怠感や

もともとの習慣もあり

部屋に砂が上がり

買い物袋や新聞紙などが山積みとなり

足の踏み場はない

彼女はいつも定置の布団に横になっている

他者の入室を頑なに拒否され数十年だろうか

 

今までの担当者も

窓越しのやりとりであり

難聴である彼女に対して

筆談でコミュニケーションを図っていた

 

昨年

担当を引き継がせていただき

今までの担当者に倣って

窓越しの訪問を続けていた

もちろん

お弁当の配達も民生委員さんの訪問も

認定調査さえも

全て窓越しであった

 

これで良いのかな?

 

筆談では伝わらないことも多く

窓から身を乗り入れても

彼女の全身状態は分からない

 

もっとゆっくり彼女と話をしたいな・・

 

月に2回

入浴目的で利用する

通所介護事業所を訪ねた

初めて隣に座り

ゆっくりと話を伺う

先入観に囚われていた自分に気づく

 

これ、いけそうだ

 

彼女が現在

唯一信頼しているヘルパーさんに協力いただき

ごみと言っては申し訳ないが

不用品の撤去に踏み切ったのだった

 

数十年ぶりに他者が室内に入る

彼女にとっては

見られたくいない室内の状況

散れてしまったことに

恥ずかしさも持たれている

それ故に

頑なに支援を断ってきたのだろう

 

少しでも住みやすい清潔な環境になるよう

できること・・

 

彼女の口から

掃除を手伝ってほしい

なんて発せられる訳もなく

半端誘導尋問的に許可の言葉を引き出した

 

以前の担当者からは

本人が望まないことは支援しなくて良い

本人は何も困っていないのだから

今の生活が本人の望んだ生活なのだから

今のままで良い

と助言いただいていた

 

でも

本当にそうなのだろうか?

 

確かに

ごみ屋敷に住んでいる方など

それはごみではないと言われるし

そういう価値観もあると思う

 

でも

彼女の場合少し違うのではないか?

攻撃的な言動もあり

いつしか人が離れていった

たしかに

当たらず触らず毎月の訪問だけすれば

ケアマネとしては問題はない

なぜ攻撃的な態度になっていったのか?

 

劣悪な環境では皮膚疾患の可能性もあり

足の踏み場もなく転倒の危険性もある

精神的にも良くないのではないか

もし

お手伝いさせてもらって片づけができる

その選択肢を彼女が知ったら

それを希望されるかもしれない

 

訪問を繰り返し

清掃に辿り着いたのだった

 

清掃後は

とても感謝され

ありがとう

ありがとう

と言ってくださり

広々となった室内を見渡し

清潔な布団に横になられていた

 

これで良かったのかな?

 

できるだけ環境を変えないように

布団周りに必要なものを再度設置した

 

数週間後

 

私の連絡先が書いてある大事な箱を返して

あなたはどこに持って行ったの?

どうしてそんな意地悪をするの?

泥棒!

訴えるわよ!

 

清掃の際に

ごみと間違って捨ててしまった

連絡先の書かれたダンボール箱

電話帳に手を伸ばすことのできない彼女は

枕元の段ボール箱に連絡先を記していたのだ

記憶できない事を

記録していた

 

申し訳ありません

捨ててしまいました

だから持ってくることはできません

でも

手がかりを教えてくだされば

連絡先を探し当てることはできるかもしれません

 

何を言っても受け入れられず

訪問のたびに殺虫剤を吹きかけられる

 

帰れ!

お前をなたで切りつけたい!

箱を返せ!

 

ヘルパーさん、民生委員さん、妹さんにまで

迷惑をかけてしまった

 

ケアマネが代わることで

サービスを継続して受け入れてくださるなら

担当を代わらせていただこうか

と思っています

 

いやいやもう少し

姉に付き合ってもらえませんか?

 

もちろん

お姉様さえ良ければ

そうさせていただきたいです

 

殺虫剤を吹きかけられ

細い身体から罵声を浴びせられ

押したり引いたり

訪問を続けた

 

おそらく

彼女と私の頑固さは

良い勝負だったと思う

  

もしかすると

私への怒りが

彼女の生きる原動力になっていたのではないか?

 

数週間後

 

今までのことは

水に流しましょう

もう忘れた

 

とお許しいただいた

 

入室を許され

スリッパ持参で訪問する

 

訪問後は

彼女と同じように

膝下に無数の赤い虫刺されができた

 

猫たちも慣れてきて

面談中にも餌を食べにくるようになった

 

彼女は国家公務員として

都内で働き

自分らしさを貫いてきた

1人で頑張ってこれたのは

文学と宗教があったからではないか?

 

しかし

定期に訪問されていた

教会の方々も

いつの間にか距離ができ

交流はなくなっていた

 

おそらく

今の状況を見られたくないが故

自分から距離を置いていったのだろう

 

1日中1人で過ごし

自分の頭の中で自分と対話し

時に

現実との想像の境目が分からなくなる

体力も落ちていき

何かの支えが必要なのではないか?

 

元気になって

一緒に教会へ行きましょうか?

 

こんな身体じゃ行けないわよ

 

彼女の口からはそう返ってきた

果たして

それは本音なのか?

本当に彼女の意向として捉えて良いものか?

その裏に隠されたニーズを

どうすれば引き出せるのか?

 

古新聞の合間に

牧師さんからの古びた手紙を見つけた

 

彼女に問うと

きっと断られるだろう

 

職務違反かもしれないが

彼女には内緒で

牧師さんの元を訪ねた

 

牧師さんはとても驚かれ

同時に彼女の無事を喜ばれた

今迄の彼女の姿をお話くださる

やはり

ここでも自ら他者を遠ざけていったようだった

以前のように

教会の訪問を再開いただくこととなった

くれぐれも

私がここを訪ねたことは

伏せていただけるようにお願いして

 

大抵の人は

宗教は警戒されるものですが

あなたの勇気ある行動に感謝します

近況を教えていただき感謝です

あなたはまだ新人さんだから

ここまで一生懸命してくれるのかもしれませんね

 

良いのか悪いのか

彼女のためになっているのか

余計なお世話なのか

迷いながらの支援が続いた

 

正月

初めの訪問は彼女のお宅と決めていた

自宅には給湯設備もなくお湯は出ない

蛍光灯も切れているが

私には懐中電灯があれば必要ありません

とそのままになっている

暖房設備もなく

いつも布団を頭まで被っている

 

以前

好きな食べ物の話をされたことがあった

私はね

あそこのお茶屋さんのお茶が好きなのよ

温かいお茶はおいしいわよね

と言われていた

 

あそこのお茶屋さん

をネットで調べたが

よく分からず・・

とりあえず

熱々のお湯をポットに入れて

急須と湯呑、そしてお茶葉を紙袋に入れて

訪問した

 

こんな温かいお茶が飲めるなんて

幸せね

と彼女

 

でも

もしかすると

これらの行為は私のエゴなのかもしれない

本当は彼女は誰にも邪魔されることなく

ひっそりと猫たちとの生活を楽しみたい

それだけなのかもしれない

 

褥瘡を繰り返し

訪問診療へ切り替え訪問看護を導入し

褥瘡予防マットを導入した

 

あまり急激に環境を変えたり

訪問者が増えると彼女のストレスになる

時間をかけて進めていった

もちろん

彼女の同意を得ながら

 

はじめのうちは

床ずれなんて蚊帳を折りたたんで

敷いておけば治るのよ

蚊帳を買いに行けたら良いんだけど

 

お風呂なんて妹のところに行けば

入れるのだけれど

 

その言葉を鵜呑みにしていた

それで良いのだろうか?

それが彼女の本心なのか?

その奥に

本当のニーズが隠されているのではないか?

 

褥瘡については

痛みに耐えかねて支援を受け入れてくださった

 

彼女の本心はどこにあるのか?

彼女すら気付いていない本心があるとしたら?

 

新人がゆえに

知識も経験もなく

awayに飛び込んでいく

丸腰で体当たりの支援であった

 

褥瘡も軽快し

しばらくは落ち着かれていたのだが

 

またも

箱を返せ

なぜ牧師さんに家に来るように言ったのか?

担当を変えてほしい

あの人は怖い

と訴えられる

 

ヘルパーさん曰く

 

この繰り返しよ

箱のことも分かっているはずなのにね

あなたがしばらく訪問しないと

顔を見たいんじゃないの?

誰が担当しても同じだと思うし

担当を代わる必要はないよ

あなたはめげずに付き合っているから

そのやり取りを楽しんでいるんじゃないかな?

 

・・・

 

喜んでくださるかな?

 

猫じゃらしを1本

手土産代わりに

訪問した

 

箱を捨てたこと

牧師さんに家に行くように執拗に迫ったこと

この2点に憤慨されていた

 

なぜあなたは私にそんなことをするの?

初めはあなたに好感を持っていたのに

あなたが怖い

 

結果的に嫌なことをしてしまい

申し訳ありません

たぶん

私、不器用なんだと思います

決して嫌がらせをしようとした訳ではありません

もう二度と余計なことはしません

それだけは

信じてください

 

何度もこのやり取りを繰り返す

 

頑固なもの同士のやり取りを

 

もし良かったら

来月もお邪魔させていただいて

よろしいでしょうか?

 

I see.・・・

 

Oh.Thank you!

 

ふふ

 

ふふふ

 

頭の良い彼女は

会話の随所に英語を織り交ぜてくる

とりあえず

また許してもらえた

もう二度と余計なことはするまい

もしくは

もっと上手く運べるようにしよう

 

牧師さんからは

私がどうか彼女の家を訪問してください

と緊急事態のように懇願された

と話されていたようだった

嘘はつきたくなかったから

彼女にも正直に事情を説明した

 

牧師さんは

私の枕元で無事を祈って感謝してくれたのよ

本当に素晴らしい牧師さんよね

元気になったら教会に行きたいわ

 

そうですね

暖かくなって元気になったら行けますよね

 

よく顔を見せて

少し前髪を上げて見せてよ

あなたってロマンティストね

猫じゃらしを持ってきてくれるんだもの

 

ハイライトの煙草の香りが染み付いた手と

しっかり握手させていただいた

 

ケアマネジャーっていったい何なんだろう?

 

介護サービスを計画する

サービスを調整する

本人、家族の意向を引き出し目標設定する

モニタリングし評価する

給付管理をする

相談援助職

 

彼女に関して

私はケアマネジャーらしいことは

何一つできていないのではないか?

 

素の私がただただ体当たりして

支援というより

こちらの価値観を押し付けてしまったのだろうか?

 

私は一人で幸せなのよ

話の合わない人といても何も楽しくないでしょう

私はたくさん本を読んできて

自分でも小説を書いてきて

頭の中は賑やかなのよ

誰にも邪魔されないで猫たちといるのが幸せよ

 

それが彼女の言葉として発せられる

表向きの意向である

 

その反面

面談を通して

人との関りも求められているように感じる

 

もしも

彼女の真のニーズを引き出せたとして

私は何を支援していけるのだろうか?

 

私を

里芋!

と名づけたのは

他ならぬ彼女である

 

 

道端の野良猫に

彼女を見守ってもらえるよう

お願いし

坂道を下り足早に駐車場へと向かった

 

寒さの残る青い空を見上げて

一呼吸おき

あまり深入りしすぎないようにと

胸に手を当てて

呪文を唱えた

 

流されやすいから

気をつけなきゃ