見た目はムカデとそう相違はない。
体長5センチほどだろうか。
私の職場は崖に面しており、年に数回、ヤスデが大量にお目見えする。
何故だか皆一様に建物の窓をめがけて、壁によじ登り、運よく侵入に成功したのは良いが、人間様に駆除されてしまう。その数は数百、いや数千匹に達する勢いだ。
そのほとんどは、志半ばで自然乾燥したり、殺虫剤散布により剥製と化す。
そのカラカラに乾いた亡骸を、塵取り一杯になるまで回収するのも私の仕事である。
塵取りに集める際の箒の柄を通して触れるカラカラに乾いた抜け殻は、セミの抜け殻の感触にも似ている。
「うわ、やだ、気持ち悪い」
「薬剤をかけるのも、気が滅入るわ」
「なぜ、今大量発生しているんですかね?」
市からヤスデ駆除の薬剤無料配布が受けられる。
直接的に人間に害は与えないが、見た目がグロテスクであったり、体液が臭いらしい。自然の中ではヤスデの糞が土の栄養になるともある。普段は枯葉や土の中に生息するが、水が苦手で地上に上がってくるらしい。
てっきり、寒くなっから暖を求めて建物内を目指しているのかと思っていた。ヤスデにはヤスデの事情がある。
にも拘わらず人間様は、一方的に害虫扱い。
もし、私がヤスデだったら・・・
何もしていないのに見た目だけで駆除されたとしたら・・・
土をきれいにする役割がちゃんとあるのに・・・
大量のヤスデは何のために生まれてきたのか・・・
建物内に侵入する志も果たせないまま・・・
仮に、建物内に侵入することができたとして、運よく水から逃げることができたとしても、ヤスデ的には最終的にはどうしたいのだろうか?どの状態がヤスデにとってベストなのだろうか?ヤスデはそんなこと考えながら、壁をよじ登っているのだろうか。
なぜ、ヤスデがこの中途半端な時期に大量発生したのか?自然界の生き物は、各々の役割を果たしながら均衡を保っているのだから、この大量発生のヤスデにもなんらかの因果関係があるのだろうか?
真面目に考えるふりをしながら、周囲に話を合わせて、ただただ私も含めた自分勝手な人間のことを想う朝であった。
明日は、ヤスデの亡骸をごみ箱でなく、土に返すことにしよう。
誰にも見つからないように。