金木犀の香りを感じながら、11月にしては生温かい空気を頬に受け、早朝の住宅街を走る。ついこの間までは、ジャスミンの香りが漂っていたが、否応なしに時は流れ、季節はもう秋。昨夜は、ブルームーンを眺めながら、無意識に願い事なんてして、月の光をたっぷりと浴びた。
普段は、すれ違う人もほとんどいない中を、1人で気ままに走るのだが、今日は二度寝してしまい、いつもより少し遅い時間帯のため、ウォーキングやランニングをしている人々とすれ違う。
中学校の横を通る。
部活動の生徒らの姿があった。野球部は試合なのだろうか。保護者の車がたくさん停まっており、青いウィンドブレーカーが見えた。
早朝から皆、頑張っているな・・
今でこそ、こうして自由に好きな時間に走っているが、数年前まではバスケの試合だ、送迎だ、野球の遠征だ、お茶当番だ、協賛金のお願いだ、さらにもっと前には、サッカーの送迎だ、保護者会だ、カブスカウトで募金活動だ・・・なんて、子供の行事で出ずっぱりだった。
今こうして朝を満喫できるなんて、なんて幸せなのだろう。
校庭の隅っこに位置するテニスコートでは、かなり高齢と見受けられるコーチの男性が、パイプ椅子に腰かけて、生徒数名にラケットの扱い方を指導していた。普段接する先生とはまた違った緊張感が伝わってくる。
人にものを教えるのって難しい。
自分が教えてもらう分には、良いのだが、何も分からない、もしくは教わる気のない者に教えるほど骨が折れることはない。
生徒たちは遠目ではあるが、目がキラキラして真剣にコーチの話を聞いているようだった。
教えてもらえるってありがたい。
学生時分には教えてもらえる環境は当たり前で、そのありがたみになんて気づかなかったが、今なら良くわかる。
教える方も、身を削って教えてくれている。教える側の方が、労力を必要とする。教えることで、自分もさらなる成長がある。
知らないことを知る、できなかったことができるようになる、そんな喜びが、この校庭では繰り広げられているのかもしれない。
早朝の誰もいない世界を独り占めして走るのも楽しいが、こうして人々が活動する姿を横目に走るのも悪くないな。
秋がきて、もうじき冬が来る。冬には冬の楽しみがある。