satoimo's diary

人生も折り返し地点を過ぎた。自分を大切にするためには...

おかしいでしょ

「早急にベッドを入れてほしい方がいるのですが・・」

 

訪問看護師さんから連絡をもらい、初めてお会いした女性は80代、ガン末期。長距離ドライバーの息子さんは不在で、昨日までは2階の寝室へ行き来できていたが、足がむくみしんどく、その日は1階のソファーで過ごされているらしい。要介護1だが、介護サービスの利用はなく、食事も自分で支度されていた。

 

要介護1では介護保険でのベッドレンタルは不可。役所へ例外給付の手続きを踏めば可能だが、時間を要し、他に希望の介護サービスはない。看護師さんは医療保険で来られる。月1,500円でベッドをレンタルできる業者さんを紹介し、自費レンタルを希望されたのは木曜日だった。

 

2日後

 

「お尻の皮が広範囲に剥けいていて褥瘡になっています。麻薬も開始し状態が悪いので、褥瘡予防マットレスをお願いできませんか?」

 

訪問看護師さんから朝一の電話をいただいたのは土曜日。

 

他の訪問予定を調整し、とりいそぎ自宅へ向かうと、長男さんが帰ってこられていた。本人はベッドに仰向けになり在宅酸素の流量も上がっている。木曜と明らかに状態が異なる。急変ということは明らかだった。例のごとく、要介護1では褥瘡予防マットレスはレンタルできない。自費では1万程かかる。例外給付の段取りを踏めば1割負担でレンタルができる。そのためには、まず役所へ一報を入れ仮の許可を得なければならない。しかし、その日は土曜日、役所は休み。さて、どうしたものか。

 

通常の段取りを踏めないため、役所の判断次第では自費レンタルになる可能性もあることを説明し、息子さんの了承を得て、いつも早急に対応くださる福祉用具業者さんに無理を言って数時間後に褥瘡予防マットレス(エアマット)を搬入していただいた。その間に、役所へ一報以外の通常の段取りを踏む。(この日が2回目の訪問であり、居宅ケアマネとの契約、アセスメント、主治医へ急変の状態像の意見を求める書類を作成し、病院相談員へ早急な返答を依頼しファックス送付、課題分析後ケアプラン作成、主治医の意見を踏まえて福祉用具事業所さんにも自宅に来ていただきサービス担当者会議開催。市へ提出する書類を作成した)

 

月曜日の8:30、役所の介護保険課へ必要書類を持参する。が、担当者2名とも選挙の応援に行っているため不在。書類を預かることはできるが、例外給付が認められるか回答はできないと窓口の女性。

(担当者2名とも不在なんておかしいでしょう。そもそも、土日に役所と連絡がつかないのも、そちらの都合でしょう?我々ケアマネはケアマネの事由で毎月のモニタリング訪問ができなければ減算となるというのに。)

 

納得できずに、説明を求めると、女性は奥からスーツ姿の男性を連れてこられた。男性は4月に移動になったばかりで分からない。担当者に後日連絡をさせるという。

(分からないって?同じ介護保険課なのにおかしくない?担当者しか分からないって、このBCPが求められるご時世に、役所の方がそんなこと・・堂々と・・)

 

その間、受付の女性は後ろの方からこちらの様子をうかがっていた。もう私はクレーマーでしかない。

 

帰りの車中で、訪問看護師さんから、昨日の昼頃、女性がご逝去されたと連絡が来た。

 

その足で、ご自宅に向かう。息子さんによると、最期は息子さんの手を握って目と目が合い、頷くようにして逝かれたとのこと。急変から短時間のことであったが、お話されることで気持ちの整理が少しづつでき、自宅で看取ることができ満足感も感じておられるようだった。女性も穏やかな表情をされているように感じた。

 

火曜日、市の担当者から連絡が来た。例外給付は認められませんと。

担当者が言うには、主治医のコメントの状態急変の日(水曜日)と、ケアマネの認識する状態急変の日付(土曜日)が異なり、主治医の日付の翌日、こちらが自費ベッドを手配した木曜日に市へ一報できたはずだという見解。加えて、HPにもそう掲載していますと。

 

ケアマネとしては、木曜の時点では初対面であり、急変の判断材料もなく、その際、本人は会話もできており、契約もしておらず、その意向もない状況。土曜は木曜と比べて明らかに急変しており急遽、契約し支援を開始した。

その「急変」とは何をもって「急変」というのか担当者へ尋ねても、「主治医がそう記載していますから」の一点張り。仮に女性が月曜の役所への書類提出時点でご存命であれば、その日からの役所の許可で何も問題はなかった。本人不在の状態で土曜に遡るため、後付けで指摘を受け、却下されたと思えてならない。

 

では、土日祝祭日と役所が休みの際はどう一報を入れればよいのですか?

私たちケアマネは現場で一人で判断しなければならない、ご利用さんやご家族へどうのように説明しろと?役所の方は課の方々複数名で検討できて羨ましいです。

(立派なクレーマーと化した私は自分でも驚くほど失礼な言葉が口から勝手に出てくることを他人の言動を見るような気持ちで聞いていた)

 

担当者は、「私たちは書面で判断するしかありませんから、もう一度課内で検討してみます。役所が休みの際のケースは今までなかったので検討します。」と30分以上の押し問答の末の回答だった。

 

水曜日、やはり主治医が急変と記載した日付の時点で連絡すべきだったため今回は受け付けられない。過去、他の例も受け付けていない。役所が休みの際には、FAXにて一報を入れ、翌開庁日午前中に申請書提出により、課内で検討するとの返答だった。

 

役所のルールに基づいた対応は十分に理解できる。が実用性がなく、制度を利用できるだけありがたく思えと言われているようにしか思えない。書面でしか判断できないと言われるため、こうやって電話で状況をお伝えしているのに。ケアプラン作成時の根拠などケアマネの見立てでと言われるのに、結局、主治医の一文には敵わない。なら、今ここで主治医へ連絡して、主治医の口から再度状況をお伝えいただきましょうか?と言いたい。「木曜に自費ベッドを入れた時点で、ケアマネが役所へ一報入れるべきだった。」というあくまで結果論。何度も言う、その時は担当ケアマネはいない。望まれないのに契約しろと?

 

末期がんの方の急変時のベッド類のレンタルについて、他に利用できる制度はあるのか?役所の担当者に尋ねるのもお門違いだが、もう口が止まらない。

 

「ないです。」

 

ですよね。てことは、急変しそれらが必要になった際には、自費で利用してくださいということか。医療保険の適用はない。介護保険では例外給付が認められることがあるが、申請に時間を要する。申請が通るだけでもありがたいことなのか。

 

そんな状況の利用者さんやご家族に、制度ですからと説明するのも申し訳ない。人の命の灯が消えかけようとしているときに。

 

同日水曜日、息子さんに状況を報告、お詫びのご連絡をした。「いいんですよ、あまりにも早かったからですね。すぐに動いてくれてありがたかったです」と息子さんの言葉をどう受け止めて良いのか、自分の詰めの甘さを反省しきりだった。

 

役所はルール以外のことはなしなのだろう。情状酌量もないのだろう。ただの書面での処理でしかないのだろう。もし、木曜の自費ベッドのことを黙っていたら、例外給付の許可が下りたかもしれない。正直に、事実を報告したことが仇になったのかもしれない。なら、多少のごまかしは許されるのか?書面で帳尻が合えば、役所的には問題ないのでしょう?そんな黒い気持ちも沸いてしまう。と同時に、ケアマネの立ち位置でしか物事を見ていないため、役所側に立ってみればまた気持ちも変わるかもしれないことも分かってはいる。おかしでしょ?と思うことはたくさんある。それは自分の尺度でおかしいでしょと思うだけで、ちっともおかしくないのかもしれないし、おかしいけどそれを変えられないだけかもしれない。

 

この状況を変えるには、自分が医者になるか、議員になるか、発言力を持つほかないのかもしれないと真剣に考えた1週間であった。