ケアマネの私とオフの私の日記

書くことで気持ちの整理をしていきたい。。

要介護4の妻を介護する要支援2の夫について

ご夫婦と出会ったのは昨年の10月末頃だったろうか。

 

急に歩けなくなったとベッドに寝たきりの妻、家でみるという小柄で腰の曲がった東北弁訛りの夫、急遽帰省した首都圏在住の一人息子夫婦はなすすべもなく、相談を受けて駆け付けた包括の方に急遽呼ばれて自宅訪問となった。

 

まだ介護認定申請もされておらず、どう考えても寝たきりの妻を腰痛持ちで90近い夫が介護するのは不可能と思われた。息子夫妻は明日の飛行機を予約しているが、このまま両親を残して帰るわけにもいくまい。施設入所といっても今すぐ入所できるとことろもない。もう19時をまわっていた。なぜ、こんな状況になるまで・・諸々尋ねたい気持ちをぐっとこらえて、初めて会ったこのご家族各々の意向をすり合わせる。動けないのだから、とりあえず救急搬送で病院受診し体の状態を確認しましょうと、全員納得し救急隊員が来られたが、妻「いや、絶対病院はいかない」。夫「誰がそういった?帰ってもらえ」。

 

その後、夫妻は介護サービスをフル活用して在宅生活を送ることとなった。妻は要介護5の認定となり、暫定で動いていた私がそのまま担当をさせていただくこととなった。

 

当初、限度額ギリギリで日に3回ヘルパーによるおむつ交換に入っていたが、夫は「妻のおむつ交換も、食事の支度も、家事も何ら負担ではない、むしろ楽しんでいる。私たちの生活を邪魔しないでくれ」という。リタイヤ後も雇用契約を結んでていた企業の顧問として妻の介護の合間にPCに向かっているようだった。そのPCのある2階には上がることはできなかった。妻のベッドは3モーターのフランスベッドを購入されていた。「レンタルは嫌いだ」という夫の意向で、福祉用具はほぼ購入となっていった。レンタル品であれば、その時々の状態に応じた福祉用具を利用できることを案内してもその意向は変わらなかった。

 

夫も免許返納を考える時が来た。坂道の多い住宅街では買い物へ徒歩で行くことはできない。介護保険では要支援でも医師が認め段取りを踏めば電動カーをレンタルできる。夫のことなので購入となると思いきや、レンタルを希望。夫も介護サービス利用となり、やっと包括の方も関与してくださることとなった。

 

夫婦按分にてヘルパーによる掃除支援の希望があった。夫は「掃除はわしができる」というが、妻がおむつ交換に来られるヘルパーさんを気にいり、掃除にも来てほしいとの意向。要支援の夫のヘルパー利用料金は月定額になるが、その仕組みをご理解いただけず、夫はヘルパー事業所へ剣幕で連絡、難聴のため電話でのやり取りは難航、夫からも事業所からもこちらに連絡が来る。行き違いが多く、夫への伝達事項は必ず訪問して行った。

 

ある時、妻がコロナに感染した。自宅療養となり夫にも感染。訪問看護でつなぎ何とか回復されるが、夫の体力低下は否めない。夫のレスパイトのため入院やショートステイを提案したが定期利用には至らず、妻は夫の食事でないと口に合わないという。夫もまた、妻を他人に預けることに抵抗があった。二人一緒ならと施設見学まで計画したが、数日後には「やっぱりいいです。この人(夫)がまだできるっていうから」と妻。

 

夫の介護保険証の郵送が遅いことについて、夫は市役所へ連絡、例のごとく電話でのやり取りは難航、「あんたじゃ話にならない、上の人に代わってくれる?」玄関に立ったまま夫の電話のやり取りに耳を澄ます。すまさずとも電話口から市役所の担当者がどんどん回されていく話しぶりが聞こえてくる。何をどう説明しても夫の理解は得られない。

 

その矛先は、幾度となく私にも向かっていた。

訪問診療の立ち合いの際、主治医が私に向かって話をされた際、「ちょっと、私に話してくださいよ、この人(ケアマネ)は他人だよ!」と剣幕で主治医へ詰め寄る。

認定調査の立ち合いの際、介護保険制度の不満をケアマネに当てつけ、罵声を浴びせられ、調査員さんもその口ぶりに引かれていた。

 

上げればきりがない。夫はキレやすいのだ。妻も長男も夫の気性は承知で、妻からもそのたびに「ごめんなさいね」と謝られ、夫もその後はケロっとしているので、どんなに暴言を吐かれようとも、払いのけられても、担当者会議を受け入れてくれなくても、妻の支援のためだと言い聞かせ、気にしないふりをしていた。他のサービス事業者さんにも夫の暴言をお詫びし、夫のスイッチが入らないように根回しするのに必死だった。普段は「美人大歓迎」と訪問を快く受け入れられており、妻のことを思っての言動であることは理解できる。

 

妻の願いを夫はすべて叶えてきた。ベッドのコールを押せば、夫が飛んでくる。月に数回はウナギを食べたい。ヘルパーさんは同じ人がいい。この枕は嫌だから買って来て。寝ながらテレビを見たい・・・。

 

1年後、介護保険更新で要介護4となる。車いす移乗も一人でできるようになり、手すり伝いにトイレへ行くまで身体機能も向上しているが、夫の見守りなしには不安もある様子だった。だが、寝たきりではない今、「自分で体を洗いたい。自分のペースでお風呂に入りたい」という妻。「でも、訪問入浴も使いたい」その意向=願いをかなえるべく、ケアマネとして課題分析しケアプラン作成となるのだが、介護保険課へ確認すると、訪問入浴対象の状態像と、ヘルパー入浴のできる状態像は違い過ぎるため、併用は想定できない。浴槽に入りたいなら通所の利用もあるとの回答。介護保険制度をご理解いただくのはなかなか難しく、今までにも制度でできること、できないことをご説明してきた。今回は本人の強い意向と、訪問リハビリから自宅浴室での入浴は能力的にも可能であるという評価、夫による浴室暖房設置、浴室への手すり追加や、ヘルパーとリハビリスタッフによる入浴動作の確認により、併用することなく、ヘルパーによる入浴支援へ移行することができた。それだけ元気になられたということ。だが、妻としては車いすに移乗できれば、あとは夫が介助するので、これ以上良くならなくてよいという。これから寒くなるのに、浴室での入浴は大丈夫だろうか不安も残った。

 

案の定、「寒くなったから、訪問入浴にもどしてくれる?今年中にできればいいんだけど。訪問入浴にはもう電話してお願いしたら、ケアマネさんに言ってと言われたからお願いね」と妻から連絡があった。

 

さて。どうしたものか。妻の気持ちはもちろん理解できる。しかし、身体能力的には自宅での入浴はできている。寝たきりではない。浴槽に入りたいなら通所の利用を提案する。妻との面談で、「面倒くさいから」という話があった。浴室まで行ってお風呂に入るのは面倒、訪問入浴なら湯舟をベッドの近くにセットしてもらい、抱えて入れてもらえるので妻は何もしなくてよいだろう。しかしそれが嫌で自分で体を洗いたくて、自宅浴を望まれたのに、また気が変わるのも時間の問題。今までにも短期間で、サービス変更の希望があり、その都度なるべく速やかに対応させていただいたつもりではある。しかし今回は、妻の意向=望みをそのままプラン化することはためらわれた。違う。自立支援ではない。私が今まで、妻の意向=望みを最優先で支援していたため、ケアマネとしてのそのサービスが必要な根拠がおざなりになっており、この事態に陥ったのだと反省した。ケアプラン化してサービスを提供するには根拠が必要なのに。

 

もちろん、ここまで来たら妻の意向通りに訪問入浴へ後戻りするという選択肢もあった。夫からも「もうこの先短いのに、希望通りのサービスが受けられないのか!わしは、人の何倍も高い介護保険料を納めているんだぞ!何十年しても使いきれないほどのの保険料を払っているんだ!役所にもきいたが、訪問入浴はすぐに変更できると言われた。おかしいじゃないか!ケアマネなんて他にもたくさんいるんだ。」夫に叱責される。

 

「おかしいですね。介護保険でなく自費なら何の制約もなくサービス利用ができます。介護保険を利用して1~3割負担でご利用となると、介護保険法に基づいたそれなりの根拠が必要であり、もう私にはお二人の望むサービス利用を支援することができません。他のケアマネさんなら、また見立てが違うため支援いただけるかもしれません。ご主人が以前からおっしゃる通りケアマネはほかにもたくさんおりますし、ケアマネが変わっても、サービス事業者さんはそのままで大丈夫です。いかがいたしましょう?」

 

私も介護保険課へ相談へ行っていたが、夫も幾度と介護保険課へ電話をされていた。主治医へ助言を求めると、「本人は身体的には何ら問題はなく依存的なためこのような状況になっている。介護サービスをうまく利用しているだけ、訪問診療も必要はないが、夫のために行っている。事務手続き上、可能ならそのようにしてください」との回答だった。包括へも相談し状況は報告していた。もう私ではご要望に応えられない。

 

包括から連絡が来た。夫から「ケアマネを探している。近隣事業所へ30か所ほど連絡をしたが、どこも断られた。皆、ケアマネ(私)とつながっているのか?どこか良いところを知らないか?」と相談があったと。その電話中に、ある居宅事業所から電話があり、「夫から依頼があったが詳細を知りたい」とのこと。今までの経緯をお伝えする。私の調整力不足でケアマネ変更に至ったこと、妻思いの夫であることなど。たまたま顔見知りのケアマネさんがいる事業所で、その方が引き継いでくださることとなった。「ご主人へご主人からケアマネ(私)へ変更となったことを伝えてくださいといっているので、ご主人からの電話を待ってください」

 

その日、電話は来なかった。

翌日、夫へ電話すると「内定しているけど、明日決まるから、ちょっと待ってね」穏やかな返答。常にキレているわけではなく普段は妻思いの温厚な方なのだ。

 

翌日、無事、居宅変更、ケアマネさんへ引き継ぐことができた。「この人(夫)は短気だから、今まで本当にごめんなさいね」と妻。「お力になれずにすみませんでした。今後は新しいケアマネさん、理学療法士の資格もお持ちですから心強いですね、よろしくお願いします」

夫は普段通りに「ありがとね~」と声をかけられ、あっけなく幕を閉じたのだった。

 

どの事業所もケアマネが足りない。新規を受けられない。介護サービス利用を必要とする方は増え続けている。と比例して、なかなかうまく支援できないケースも増えている。一般的なケースの何倍ものやり取りや調整が発生し、他の方に充てる時間が削がれていく。もっといえば、我々も介護保険料を払っている。サービスを受ける権利はもちろん否定しないが、ケアマネがすべてを叶えられるわけではない。言いなりプランを作成すると、保険者から指摘を受けるのは我々なのだから、もどかしい。居宅ケアマネになりたいという若者は果たしてどこにいるのだろうか?