久しぶりの晴 れ間、平日のお昼前だった。崖に面した住宅街の角地にある一軒家に娘さんと住む90代の利用さんの家を訪ねた。
娘さんは保護猫の活動をしており、自宅には小さな扉があり、地域猫が何十匹と出入りし、時にはアナグマもやってきては、常備しているカリカリの猫のえさを食べているのは知っていた。
ご自宅の門扉を開けようとした際、斜め後ろから何かの視線を感じ、崖の方に目をやると、数メートル先に1匹の黒猫と、何かわからない2匹の動物がじっとこちらを見ているのに気づく。
何かわからない2匹の動物は、猫より少し大きいが、アナグマには見えない。アナグマは以前、自宅にアナグマが住み着き、かまれて大怪我をされた高齢女性宅で遭遇したことがある。
その2匹は、じっとこちらを見据えて逃げようともしない。よく見ると、毛がまだらに抜け落ちているようで、毛のない犬のようにも見えるが、シルエットは全く異なる。
ほどなく、娘さんが出てこられ、興奮気味に2匹の動物の存在を知らせると、どうやら毛の抜け落ちたタヌキらしい。
娘さんが言うには、人間の食べ物を与えたから毛が抜け落ちる病気になったとか。そういいながら、台所の棚から小麦粉を取り出し、その小麦粉に卵と砂糖を混ぜて焼いたものをタヌキに食べさせているという。それって、パンケーキ?以前は、ベーキングパウダーも入れて膨らませていたが、価格が高い為、今は入れていないとか。
人間の食べ物で病気になると分かっていながら、なぜ??
それから、他の猫たちのエサ代は月に30,000円ほどだと教えてくださった。カリカリは
毎日1袋、自作のパンケーキ、菓子パンに食パン、牛乳・・。自分たちの食事は質素なものだとか。
保護猫の活動は知っていたが、果たして、娘さんのこの活動は、どうとらえればよいものだろうか。
野生動物に人間が食べるものを、エサとして与えるのはどんなものだろうか?
そのお宅はいつもスリッパを用意してくださり、椅子を覆った新聞紙を外した席に案内される。足元には数個のエサ皿にカリカリや牛乳が常備。おいしいコーヒーを淹れてくださり、要介護4のお母様の介護について日頃の話を伺う。時折、猫たちの出入りがあるが、さすがに日中はアナグマは現れない。
足元のエサ皿に躓かず、猫たちとも共存し、夏には少し皮膚が赤くなることもあるが、鼻歌を歌いながら自宅での生活を満喫されているお母様。彼女らにとっては、それが快適な環境なのかもしれない。
自宅に戻り、娘にタヌキと出会ったことを話すと、ささっとスマホで検索し、ダニによる皮膚病だと教えてくれた。一種の疥癬症らしく、その画像は、まさに今日遭遇したあの2匹そのものだった。