satoimo's diary

人生も折り返し地点を過ぎた。自分を大切にするためには...

光と影

すべての品物が半額の店があるらしい。

 

息子の情報を頼りに繁華街のアーケード内を詮索した。こんな地方都市にも、いよいよそのような店ができたのか。半額って。

 

その店は人通りの少ないアーケードの一角に、少し異国の雰囲気を漂わせて並んでいた。というより押し込められていた。

店頭の段ボールには確かに、赤字で値段訂正され「半額」とある。初めて見るラベルの缶ジュースや、レトルトカレーにパスタソース。クッキーやトレーニング用品まで、食品だけでなく便利グッズのようなものも陳列されていた。

 

店内は薄暗く、床がペコペコする。客は数名ほどだった。2階もあるらしく、恐る恐る階段に向かう。明らかに水平でない階段を、抜け落ちないことを願いながら上ると、1階と同じ商品が並んでいた。天井には店の雰囲気とは不似合いなシャンデリアがボーっとあたりを照らしている。前の借主のままリフォームせずに店舗にしたのだろう。

 

「僕、なんかいやだ。気持ち悪い、この感じ」

 

一通り物色して、目ぼしいものも見当たらず、また今にも崩れ落ちそうな階段を下りる。息子は、いやだといいながら、得体のしれない外国産らしい半額の缶ジュースを1本購入した。

 

「アリガトウゴザイマス。79エンデス。」

 

アジア系のなまりが強いレジの女性が、さらに怪しい雰囲気に拍車をかけた。

店の前半分は、陳列棚に似たような商品が並んでいるが、店の奥半分はさらに薄暗く段ボールが積まれ倉庫のようだった。

 

「このあたりの街は気持ち悪い。なぜ、変な人ばかりいるの?イオンとかの方がいい、きれいだし」

 

確かに。

このあたりの雰囲気は、私が高校生だった頃のまま、再開発もされず、取り残されているようだった。建物も古く、照明も薄暗く、引き寄せられるように怪しげな人や物が集まる。

今はなくなってしまったが、雑居ビルに「Mr.BOO」と名乗るミリタリー調の服を着たおじさんが営む雑貨屋があった。雑貨屋と言っても、文化祭の延長のようで、床に敷物を敷いて、ガラクタとも思われるよくわからないものを売っていた。仲良くなると、免許証サイズのカードをラミネートして作ってくれた。

流行り始めたカラオケボックス。当時はホテルを改装して営業している店も多く、なぜかお風呂付の部屋で朝まで歌ったりしていた。

雑居ビルの隙間をすり抜け、隠れ家的な店も多かった。

言われてみれば、確かに、店も街も雰囲気もきれいではなかったかも。何かごちゃごちゃしていて、怪しげであり、でもそこに少しひねくれた楽しみもあった。

 

あらゆるものが機能的になり、街は整備され、清潔感がある。電車内で煙草を吸う人もいなくなり、ショッピングセンターのトイレなんて、とてもきれいだし、それが当たり前になっている。身の回りのあらゆる汚いものが見えなくなっているように思う。

 

そんな環境で育った彼らには、あの店は異様に感じられたのだろう。

 

世の中はきれいなものばかりではない。一歩路地裏に入ると、別世界でもある。これから社会に出るにあたって、いつ迄もかごの中の鳥ではなく、世の中の光と影を知り、自分なりに上手く付き合っていてほしいと願う。