初夏を思わせる
陽気の日だったが
木陰に入ると
そこを通り抜ける風は
まだどこか肌寒さも残している
私は体育館にいた
弱小チームである
応援のためだ
正直
勝ち負けなんて
大したことではなかった
どれだけ
チームメイトと信頼しあい
どんなに強い相手にでも
心で負けずに
くらいついていく
決して手を抜くことなく
目の前のボールを追いかける
そんな彼らの姿を見ているだけで
成長を感じ
人の子も我が子も同じように
嬉しく思うのだった
この日の
彼らの動きは
いつもに増して俊敏で
2階から応援している私にも
真剣さが伝わってきた
あまりスポーツに
興味のある方ではなかったが
この日の試合を見て
今までの彼らの頑張りを思い
僅差で勝利した姿は
涙でにじんで見えた
スポーツで感動することってあるんだ・・・
そんな感動もつかの間
試合後の移動時にも
部員数名は姿を見せない
ったく
どこに行ったんだか
いつものことだけれど
と
体育館の入り口付近に
たむろしているところを発見
声をかけに行くと
他校のバスケ部員と
親し気に談笑していた
その光景は
なんだかとってもおかしくて
それでいて
ほほえましいものだった
まるで
昭和のテレビドラマに
出てくるような
他校に喧嘩を売りに行って
仲良くなった中学生みたいな感じで
試合の勝敗に関係なく
仲良くなれる彼らの純粋さを
うらやましく思い
また
親の手を離れて
自分たちの世界を作っていっていることに
寂しさというよりは
嬉しさの方が勝っていた
時代は
変わっても
その時を共に過ごした者同士の
その場を共有した者同士にしか
味わうことのできない
何か
がまだそこに存在するようで
なんだかとても
ほほえましく思ったのだった
おそらく彼らは
自分が何者なのかを模索し始め
無限の可能性を感じつつも
今何をすべきなのか
どこを目指して進むべきなのか
はっきりとは分からず
体だけがどんどん成長していき
心の
成長は追いつかず
必死に
霧の中を手探りで進んでいるのだと思う
もうそこに親の手解きは必要なく
自分で進むべき道を
みつけなければならない
私にできることは
必要な時にお弁当を作り
必要な時に経費を捻出する
あとは
彼らを信じることぐらいだろう
今彼らは
部活に一生懸命で
朝練開始を聞き
自主的に早起きするようになった
今彼らは
仲間を信頼し
バスケを通して仲間との時間を共有し
同じものを感じている
それって
青春ではないか・・
もちろん
心の奥底には
多少のやましい気持ちもあるだろう
しかし
それらを含めても
彼らはまだどこか純粋で
キラキラしているのだ
そんな彼らを見て
私も勝手に青春しているのかもしれない
勝手に青春している私は
相変わらず
母親たちの噂話は苦手で
しばらくはシートに座って
適当に相槌を打ちながら
太陽に照らされた
校庭の木々を眺めていたが
また
他校の試合を観に1人体育館へ戻った
体育は2をとったこともある
決して運動神経が良い
とはいえない私
運動会はあまり好きではなく
どちらかというと文化祭が好き
短距離走なんてもってのほか
長距離走も好きではないが
まだいいかな
中学のバレー部では補欠であり
3年間で1回しか
公式試合に出れなかった
ボールに触れることなく
試合は終了した
それでも
強い人が出ればよいと思っていた
集団行動が苦手なのは
今でも変わらない
私は私
彼らは彼ら
一番の目的は
彼らがバスケに打ち込めるよう
サポートすることであり
母親達の噂話に加わることではない
今までのように
自分を押し殺して
無理にその場に居合わせることなく
好きなように過ごすようにしている
変わった人と思われようが
構わない
自分を大切にするための
第一歩として
好きな事と嫌いな事を
意識する
残り少ない仲間との日々を
思う存分楽しんでほしい
走り出すたびに
バッシュがキュッキュッと音を立てる
体育館は蒸し風呂のようだ
黒いカーテンが風で揺れるたび
外の光が差し込む
タイムアウトのたびに
ベンチの者がうちわで扇ぎ
氷嚢を選手の首に当てがう
ホイッスルと同時に
またコートへと走り出す
最後の逆転シュートのボールが
リングのネットをするりと抜けたとき
体育館全体の空気が揺れるほど
大歓声が上がった