2月にしては珍しく生温かい朝
大粒の雨が気持ちよいほど
勢いよく降っていた
いつものように職場に行き
いつもの風景を眺める
湿度は100%に近いのではないか?
窓は結露し外の風景も見えない
室内の空気はかなりの水分を含んでいるようで
じっとりと重く感じる
雑巾のように絞ったら
じわっと水分が出てきそうだ
慌ただしく行き来する中で
事務所の真っ赤な加湿器が目に入った
作動している
湿度100%に近いこの状況で
真っ赤な加湿器からは
冷たいのか?暖かいのか?
蒸気が出ていた
事務所の人間は何も感じないのか?
なぜこの状況で作動させているのか?
意味も分からぬまま
事務所の前を通るたびに
モノクロの中にある不自然なほど真っ赤な物体を
ただぼんやりと眺めた
中学生の頃
同じような雨模様の日は
決まって校舎の廊下で
筋トレやダッシュをしていた
廊下は空気中の水を引き寄せるのか
決まって湿っていた
思春期特有の匂い
逃げ場のない飽和状態の水分は
同じように窓も曇らせていた
疑うことなく先輩の指示に従う
もともと運動は得意な方ではなかった
中学に進学し部活動に入るもんだと
信じ切っており
何部でも良かった
特に何をしたい訳でもなかった
ただ周りに歩調を合わせていた
同じクラスの子が入ったバレー部に
特にやる気も目標もないまま
入部した
小学生の頃から少年団に入っていた子が
レギュラーを固め
その状況は3年間変わることもなかった
弱小チームでもあり
外部コーチは必死になって勝利を目指し
中学校から始めた私をはじめ数名は
ボール拾いに明け暮れた
不思議と
試合に出れなくて悔しい
と思った記憶はない
強い人が出て当たり前
勝ってくれれば良いと思っていた
小さな世界の中で生きていて
目の前のことがすべてで
理不尽なんことがあっても気づかず
ただ純粋に何も疑わず言われたとおりにすることしか
知らなかった
試合に出れたのは
3年生最後の1試合のみ
ボールに触れることもなく終わった
頑張っても
叶わないことってあるんだ
中学生だからといって
皆平等に扱ってもらえるわけじゃないんだ
頑張りが足りなかったのかもしれないし
本気で上手くなりたいなんて思ってもいなかったのかも
あまりおしゃべりをする方ではなかった
もちろん
自己主張なんてしたこともなかったし
主張するほどの意見も持ち合わせていない
物を作ったり
絵を描くのは好きだった
美術と技術家庭は良い成績だった
美術の課題で
ビーチボーイズのCDジャケットを選んだことがある
ピンクのワーゲンがビーチに停まっているジャケット
初老の美術の先生に
その選択を気に入られ
何かと声をかけられるようになった
先生と話すのも得意ではなかった
今にして考えると
絵を描くことは
自己表現の一つの形だったのかもしれない
言葉で表現するのではなく
絵に描いて自己を吐き出す
同じような感覚は
料理を作るときにもある
料理で表現することで自己を吐き出す
大人になってここ最近でいうと
プラン作成時の本人の言葉の代弁の際に
その人の思いも重ねて吐き出す
インプットだけでなく
アウトプットもしていたのかもしれない
将来のことなんて
深く考えていなかった
母や姉のように
普通に結婚して家庭をもって母になるんだろう
と疑わなかった
そんなモデルしか私の周りには存在しなかった
いや
他のモデルを探そうともしなかったし
探す必要性にも気づかず
探す術も知らなかった
上の姉のように
勉強しなくて良いのなら
同じ高校に行こう
私立しか受験しないことについて
ほとんどの先生に反対された
ただ一人
美術の先生だけは
鶏頭牛後
もありだと思う
無理して進学校に行くよりも
手に職をつけて
成績も上位を狙える学校で
鶏頭になるのも良い選択なのではないか
と後押しされ
特に勉強もせず私立への進学が決まった
いつの間にか
絵を描くこともなくなり
自分の好きなことも見失い
日々の雑踏に飲まれて
ただ生活していくのみになっていった
娘のスケッチ大会で
一緒に絵を描く機会があった
近所の美術館が毎年夏に開催する
森のスケッチ大会
数十年ぶりに画板を肩にかけ椅子に腰かける
久しぶりにゆっくりと自然の中に身を置いてみる
木陰は思いのほか涼しく
土や草の新鮮な香りがする
大人になってしまった私は
そんな自然の気持ちよさよりも
虫に刺されるのではないかと
気が気でもなかった
目の前の森林の風景を画用紙に下書きする
しかし
今の私のそれは
写真を描くように
見たままにしか描くことができなかった
何の面白みもない絵
一方で
娘の絵は
目の前の風景とは全く違い
あり得ない色を使って描いていた
それから毎年
面白いように入選を繰り返した
それが絵を描くことなんだろう
中学生の頃のような絵は
もう今の私には描けない
現実を知り
良いことも悪いことも穢れたこともずるいことも
経験するうちに
大人になってしまったのだろうか?
それが大人だとしたら
なんてつまらないんだろう
自分を大切にする
もっと自分の心の奥に耳を澄まして
忘れてしまった
純粋に楽しむ心を取り戻していきたい
大人になったって
楽しいことをしてもいいじゃないか
このままでは
なんだかもったいない
テレビでブルーハーツの特集をしていた
ちょうど
小学校の終わりから中学生にかけて流行っており
男子はこぞって歌い
飛び跳ねていた
あまり過去のことを振り返りたくはない
でも
そこから
これからの生き方へのヒントが得られるような
気がしてならない
これからも
思ったことをやっていく
本質は
信じて疑わない無知な中学生のままなのかもしれないけれど
答えはきっと奥の方
心のずっと奥の方
涙はそこからやってくる
心のずっと奥の方
情熱の真っ赤な薔薇を
胸に咲かせよう
花瓶に水をあげましょう
心のずっと奥の方 ♬
できることなら
緑化クラブの君に会いたい