あなたに聞いてもらって
少し
落ち着いたわ
どうしようかと思って
あなたに
電話したとこよ
ケアマネさんの私は
傾聴が主な仕事だと思っている
小雨の降る中
いつもの長靴を履いて
訪問先に車を走らせた
どこからどう聞き出そうか・・
公営住宅の一階
チャイムを鳴らすと
すぐに応答された
きっと玄関で待たれていたのだろう
他人を自分の家に招き入れる
家主にとってはストレスに違いない
その気持ちに敬意を払いつつ
丁寧に重い扉を閉めた
1人暮らしへの不安
身寄りのない言いようもない不安
そう遠くない将来への漠然とした不安
だんだんと忘れていってしまう自分への不安
それらを
はっきり言葉として表現できず
同じ話を繰り返される
その話のループの中から
それらを引き出そうと
ただただ思いのたけを伺う
友達がいないと漏らされるが
テレビの後ろの壁には
数十名の連絡先を書いた紙や
名刺が貼り付けられている
電話の下の戸棚には
昔ながらの五十音順の電話帳に
びっしりと連絡先が手書きで書きこまれている
がしかし
その中でも
機能しているものはほんの一部で
多くは
過去のある時点をもって
あるいは徐々にそこに置き去りにされ
セピア色と化しているように見受けられた
一見
物は多いが部屋は片付けられており
何の問題もないように感じる
話を伺ううちに
ぽつりぽつりと相違点が浮かび上がる
話と実生活がかけ離れていることも多い
おそらく
本人も何をどうしたいのかよく分からないのだろう
質問の言葉を選び
ひとつひとつ紐解くお手伝いをし
生活する上での問題点を確認していき
支援につなげる
2時間ほど話を伺い
帰りの重い扉を開く際には
あなたに聞いてもらって
少し
落ち着いたわ
ありがとう
と見送ってくださった
サービスを調整したわけでもなく
ひたすら話を伺っただけであり
ケアマネさんとしては
用をなしていないのかもしれない
この繰り返しの中で
信頼していただき
たくさん話をしていただくことで
支援の方向性が見えてくるのではないか
と現時点では思っている
それが正しいのかどうかは分からない
ケアマネさんは私でなくても良い
代わりの者は五万といる
組織にとっても同じことだ
誰でも良い
仕事としてその役割を
させていただいているだけである
また
あなたでなければだめ
と言われるような支援は
良くないのではないかとも思う
ヘルパーさんは誰が支援しても
同じ支援ができるように
数名でケースを担当する
状態が改善したのは
本人の力であって
ケアマネの存在は出てこない
そう思ってもらえるのが
本当のケアマネジメントなのではないかな
あくまでも仕事としての話
自分の人生では
誰だって自分が主人公である
そこに登場するのは
決して誰でも良いわけではない
私にとっては
あなたでなければだめなのだ
そんなことを考えながら
少し斜めに駐車してしまう
雨もあがり晴れ間も出てきた
ま、これもありよね
なんて言いながら
花壇の横を歩く
そこには
チューリップが植えられており
暖かくなるにつれ
芽を出し始めている
訪問で駐車場に行くたびに
話しかける
最初に芽を出したのは
白いチューリップだった
次は赤いチューリップ
そして今日は
黄色いチューリップが
タケノコのように葉に包まれて顔を出していた
緑の葉の真ん中に
まだ葉と見分けのつかないほどの
黄色い花びらがくるまっている
♬咲いた咲いたチューリップの花が
並んだ並んだ
赤 白 黄色 ♬
あれ?
花壇のチューリップが咲いた順番は
白 赤 黄色・・・
ま、きれいだからいっかぁ
鼻歌を歌いながら
チューリップを横目に
大切な人が
メロディを口ずさむ姿が目に浮かんだ
♬I will be there at your side・・