降水確率0%
例のごとく
これでもか!
と言わんばかりに洗濯機を回し
パンッパンッと布団を干した
家事や子供たちのことを済ませ
買い物へ出かける
確実に紫外線は
車窓を突き抜けて
私の手の甲に届いているであろう
熱い・・・くらいだ
小学一年生たちが
午前授業で保護者らに連れられ
下校している
公園の緑は鮮やかさを増してきた
桜も風に揺れ散り始めている
新緑の季節がもうそこまで来ているようだ
私が小学一年生の頃は
できたばかりの住宅地に住んでいた
今のように親と一緒に下校する
なんてこともなく
1人で下校し
誘拐されそうになったこともあったが
自転車を乗り回して
1人好きな所へ出かけて行った
ちょうど今日のような春から新緑の季節の頃
緑の芝生が
とてもきれいな場所があった
それは
大きな総合病院の敷地内にあった
友達と放課後によく遊びに行ったものだ
そこには
シロツメグサがたくさんあり
それをつんでは
首輪や腕輪を編んで遊んだ
芝生に寝っ転がって
四葉のクローバーを探した
病院の敷地はとても広く
私たちの遊び場は
滅多に人が来ない場所でもあった
崖に自生している
蛇イチゴを見つけて
食べるのも楽しみだった
遊び道具なんて
何もなかったけれど
まるでラピュタに出てきそうな
草原にも似た緑豊かなその場所を思い出すと
今でも穏やかな気持ちになり
瑞々しい緑の香りに包まれる
その場所は
総合病院の実験に使われた動物たちの墓地だと聞いた
林に囲まれた芝生の真ん中に
大きな記念碑にも似た墓地があった
その場所は
周囲とは違う空気が流れていた
というより
時が止まってしまっている
ようでもあった
不思議と怖さを感じることはなく
天気の良い日は
よくそこに遊びに行った
緑を胸いっぱいに吸い込んで
思い出すその光景は
決まって今日のような
とても天気の良い日だった
大人たちは誰も
子供たちがその場所で遊んでいることは
知らなかった
総合病院に隣接した団地であったため
そこの医師の子供たちも
転勤までたった数年ということもあり
公立の小学校に通っていた
そのうちの一人の女の子と仲良くなった
帰国子女の彼女は
当時の私にはとても眩しく映った
そして
なんだか新鮮ですぐに意気投合した
彼女の家は
アダムスファミリーに出てきそうな
立派な洋館だった
庭にはバスケットコートがあり
洋館の正面に大きな扉があった
扉を開けると
玄関ホールは吹き抜けで
二階へと続く真っすぐな階段が構えている
玄関ホールを境に
右側はリビングやキッチン
左側は祖父母の部屋で
そこには初めて見る
ロッキングチェアーがあった
リビングには
当然のように暖炉があり
アメリカ映画に出てきそうな
写真がたくさん飾られていた
石の塊も飾られていた
パワーストーンの結晶だったのだろう
階段を上り左側は子供部屋
右側はご両親の部屋だったと思う
子供部屋はお兄さんとシェアしており
二段ベッドが置かれていた
そして
初めて目にしたのが
日本のリカちゃんとはまた違った
なんだかとってもアメリカンな感じ
キャベツ畑で生まれた
キャベツ畑人形だった
当時の私は
どこか海外への憧れがあったのか
リカちゃんではなく
ジェニーを買ってもらった
ジェニーの洋服を
見よう見まねで作ったものである
大人になったらすれ違うこともないであろう
彼女と私
帰国子女の彼女とただの私
キャベツ畑人形とジェニー
でも
子供の間はそのことに気が付かないし
皆横一線で同等であり
それすら疑うことも知らなかった
それもまた子供の特権なのかもしれない
小学校のすぐそばに住んでいた女の子
建てられたばかりの彼女の家は
リビングの周囲に段差が設けられており
それをベンチ代わりに何人も座ることができた
公営住宅の女の子
当時では珍しいパソコンを使った
ゲームをしていた
可愛らしいママで
彼女とおそろいのエプロンを作ってもらった
純和風な家に住んでいた女の子
庭は砂利が敷き詰められ
立派な植木が植えられていた
その庭で泥水を集めては
ままごとをした
アパートの1階に住んでいた女の子
コンパクトなその家が
なんだかとてもうらやましかった
熱帯魚の水槽がたくさんあった家の女の子
家の中はもちろん
庭にまで水槽が置かれていた
鮮やかな見たこともない
魚たちがたくさん泳いでいた
住宅地の真ん中に
工場の跡だったのだろうか?
廃墟があった
いつしかそこは
秘密基地と化し
お菓子を持ち寄って集まるようになった
また
宅地整備中の崖付近
その奥も秘密基地と名付けられていた
公園の隣のモダンな一軒家
その庭には
数個の埴輪が置かれており
その家の塀の穴から覗き見ると
日によって
埴輪の手の向きが違うという
都市伝説の走りのような説があった
その家のトイレットペーパーは赤いらしい
という情報もあった気がする・・
小学校の向かいの畑は
友達のおじいさんのものだった
その畑でとれたてのトマトをいただき
その場で頬張った
うぅっ・・・
その日以降
生のトマトは食べることができなくなった
施設建設予定地の果てしなく広い空き地
その空き地でバッタを捕って回り
けり野球をした
しかし
時に異臭が漂うことがあった
原因は今でも分からない
小学一年生
学校から帰ると
鍵っ子だった私は
すぐに自転車で遊びに行った
世の中の恐ろしさも
どうすることもできない事象も
何の穢れも知らないその頃
その頃を思い出すことすら忘れて生きていた
降水確率0%
とても天気の良い日の何気ない出来事で
ふいに思い出すことができた
いつも
何かに追われて駆け足で走っているけれど
ときには
休憩も必要だろう
そのことに気づかせてもらった気がする
時には
緑の芝生に寝転んで
また
一緒にアイスクリームを頬張りたい
できることなら
緑を胸いっぱいに吸い込んで
緑の瑞々しさや
幸せを感じていたい
今日の日もありがとう