人生で初めてのアルバイトは
初めてのバイトで記事にしたように
国道沿いのケーキ屋さんであった
高校時代
もう一つバイトをした
インド人と一緒に
カレー店のホール及調理だった
インド人は
厨房でゴキブリを発見すると
チャッカマンで火をつけた
インド人は
機械で千切りにされたキャベツを
屋外のホースで
ジャンジャン水にさらした
インド人の気質と飲食店の裏側を垣間見た
やがて短大に進学し
繁華街の喫茶店でアルバイトを始めた
昭和感の残る
レトロな店内は薄暗く
メニューもサンドイッチなど定番もので
店主のご夫婦もなかなか味のある方だった
私のほかに
バイトの女性が2人いた
私より一回りくらい年上だったろうか
お2人ともきれいなお姉さんだったのだが
何かいけない男に騙されていそうな
昔、やんちゃなことをしていたかのような
そんな悲壮感を漂わせていた
そこが
繁華街の中にあった喫茶店だったから
なおさらそう思わせていたのかもしれない
そこでは手早くパンにバターを塗ることを覚えた
深夜専門でのアルバイトだった
マニュアルを覚え
可愛いユニフォームを着て
レジに立つ
同じような年代の子たちも多いが
年功序列で
経験の長い者はバーガーの調理を担当
私はご注文をお伺いし
番号札をお渡しし
注文を大声で調理担当者へ伝え
ドリンクを用意し
商品をお渡しする
深夜でも
遠出する若者たちで
混雑する時間帯もあった
他店に見学に連れて行ってもらったりもした
店内で朝を迎え帰宅
ファストフード店特有の声の出し方を学んだ
本及びレンタル、CD販売店のアルバイト
同じ店舗で花形なのはレンタル部門
私は販売部門に配属された
やや頼りない華奢な社員のお兄さん
自由にさせてもらい
優しくもしてもらった
販売促進用のポップ組み立て
送られてきたと通りに
組み立てればよいのだが
販売部門はお客さんもまばらで余裕があり
いつしか
自作でポップを飾り
ディスプレイを変更していった
社員さんからの評判も良く
好き勝手に楽しませてもらった
洋楽のジャンルとファティマ・レイニイを知った
交通量調査
警察署に集合し
現場の交差点に護送車で送られる
パイプ椅子に腰かけ
右左右左カチカチ
野鳥をカウントするあれでカウントした
丸一日交差点で過ごし
また護送車で送られる
警察の予算の事情を知り護送車の内装を初めて見た
パーティーコンパニオン
社交ダンスのような長めのスカートを支給され
ホテルでのドリンクサービスを行う
テーブルを担当し
ビールを注いで回る
どこの世界にもベテランは存在する
1回だけのアルバイトだった
見た目の華やかさとは違うその世界の裏側を知った
焼き肉店のホール担当
厨房から出来上がった料理を
テーブルへ運ぶ
ビールサーバーは
ジョッキを傾けて
最後に適度な泡を注ぐため
レバーを奥に傾ける
音を立てずにグラスをテーブルに置く術を学んだ
宅配ピザの調理担当
注文を受けてから
ピザ生地を中心からくるくる回して広げてゆく
既定の大きさに広げたら
ヘリを作り
具材を乗せてオーブンへ
焼きあがったらピザカッターでカットする
ピザ生地をイタリア人みたいに広げる技を学んだ
フリーターの期間もあった
フーズバーの洋食担当
カウンターで1人で調理し
できあがったら
チン
とホール担当者に知らせる
パスタ、ピザ、サラダ、オムレツ・・
教えてもらったレシピ通りに作ったり
時にはアレンジして楽しんだ
発注やメニュー開発もさせてもらった
一番人気はたらこスパゲッティだった
滅多にお客さんが座ることのない
カウンターだったが
たまに出張の警察官や
1人旅の方が訪れた
外国人のお客さんと意気投合し
閉店後に話し込んだこともあった
完全に昼夜逆転の生活となり
楽しくもあったが
自分を見失った時期でもあった
チーズオムレツをきれいに焼けるようになった
居酒屋のオープニングスタッフ
オープン前からのアルバイトで
和食職人さんのアシスタントだった
彼らの包丁を片付けようと触れただけで
ひどく叱られた
オープンキッチンで
オーダーが来たら皿を用意し
彼らをサポートする
やがて
彼らと同じように
調理を任されるようになった
開店前に
大量の玉ねぎの皮むきをした
バックヤードでは
ゆずのシャーベットを
つまみ食いしたものだった
和食職人さんのポリシーや包丁さばきを学んだ
ホステス
1日で無理だと悟った
店の近くの喫茶店で面接し即採用
その日の夜に店に出る
人気のある女の子は
自前のドレスで店に出る
私のような者には
店側が常備しているドレスを貸し出してくれる
店内で使用する源氏名を考え
手書きで名刺を作った
女の子たちは皆ポーチを小脇に抱え
テーブルにつく
テレビで見たように
お客さんが煙草を取り出すと
さっと火をつける
その時の私には
女性を武器にした
この仕事を続けることはできなかった
女の子たちの逞しさやプロ意識を目の当たりにした
パチンコ店のカウンター
トランシーバーを装着し
片耳から仲間の会話や指示を聞き取り
胸元のマイクのボタンを押して応答する
常連のおじさんに顔を覚えてもらい
残り玉の駄菓子をもらうようになった
カウンターも面白いが
台のランプが光り
替えの箱を持っていくのも楽しかった
外の景品交換所のおばちゃんとも
顔見知りになり
定時にライバル店に頭取りに行く
どの台に
お客さんが何人いるのか記入する
その間に仲間に頼まれた
お弁当などを買って帰った
事務所に各台の情報が集まり
モニターに映し出される
新台入れ替え前日は店休日で
警察が立ち入り検査する
釘の調整は
閉店後に店長のみが許される作業
働く者もお客さんも
何らかの事情を抱えている者ばかりだった
皆お互いの素性は知らなかった
更衣室のあるビルの屋上のプレハブでは
サンダルがなくなった
やがてコーヒーレディーが導入され
あっという間に
定着していった
彼女らも一様に素性は明かさず
ビジネスライクなお付き合いだった
パチンコで絶対に勝てるわけがないと分かった
どの世界にもベテランは存在し
新人の私にも親切に指導してくれた
覚えているのはこれくらい
これが
私のアルバイト遍歴である
もしかすると定年退職後
あるいは別のどの時点かで
私のアルバイト遍歴は
上書きされていくのかもしれない
それも楽しそうだ
彼が言っていたように
私も
未だにアルバイト気分でいるのかもしれない
そう考えると
仕事も何だか楽しく思える
楽しんだって良いんだ
仕事だからと難しく考える必要なんてないんだ
明日もアルバイト楽しんでいこう