ケアマネの私とオフの私の日記

書くことで気持ちの整理をしていきたい。。

超難聴②

特殊寝台に横たわる

家主に声をかけ

ふとその手すりに手を触れた瞬間だった

 

ビリビリビリッ

 

ギャーッ

 

してやったりと

家主は

ほくそ笑んだように見えた

顎で

足元の床の間を見るよう合図する

そこには

かなり流行った

いや

今でも受け継がれているのかもしれない

電気治療器の大きな機械が置いてあった

 

「ばあさんのために

 むかし何十万出して買ったのよ

 電気をあてると

 歩けるようになってね

 ふふふ」

 

危うく感電死するところであった私を尻目に

杖なしで歩いて見せる

 

「あんた

 聞いたことないね?

 悪い人たちがいるのよ

 昨日は

 玄関じゃなくて

 あっちの部屋から話声がして

 電気をつけたら

 逃げて行ったんだけど」

 

またもや顎で

仏間横の半分ふすまが開いたままの部屋を

見るように合図する

 

以前

家主の祖先は

江戸時代に密輸に関わっていた

と聞いたことがある

お殿様の品物を船を使って江戸に輸送する

と同時に

何かしら違法なものも密輸していたとか・・

 

その「お宝」が眠っているのが

声がしたという部屋だった

 

今まで家主に関わってきた者は

ことごとく

悪者に仕立て上げられていく

皆が「お宝」や「財産」を狙っている

と思い込み

そんな家主の考えを修正はできない

 

コミュニケーションに

通常の5倍は要するため

大抵の者は

話半ばで精魂尽きてしまう

 

いくら親身になって

家主のためにと動いてきた者でも

「あの人が狙っている」

「あの人が帰ったら物がなくなる」

「あの人はお金の隠し場所をやけに聞いてくる」

となっていた

 

あまり深入りはしたくなかった

まして「お宝」なんて見せてほしくない

きっと

見てしまうと疑われるだろうから

 

しかし

執拗に部屋を見るように促され

しかたなく

ふすまを開けた

 

みかんのネットをくるくる巻き上げて作った

リンゴのようなネットが電気の紐についている

四畳半ほどの和室で

雨戸はきっちり閉められ

真っ暗だ

 

おそるおそるリンゴを引っ張ると

電気がついた

 

その部屋もまた

段ボールたちが直置きに積まれており

品物たちは買い物袋に入れられている

壁に作り付けの洋服ダンスもまた

ドアは半開きで

何やら着物のようなものが見える

音もなく空気はよどみ寒気さえ感じた

もちろん

誰もいるはずもない

 

「お宝を狙われている」

と言う割には

洗面所に連れて行き

棚の真ん中あたりに通帳を隠している

とか

預金通帳を見せて

これだけお金がある

とか

この部屋を見るように促され

ここにお宝がある

とか

聞いてもいない情報を

開示したがる

 

そもそも

 

超難聴であるのに

夜間の訪問者がいるとすれば

その声や物音が聞こえるのだろうか??

 

昼間は

鍵のかかっていない縁側から入り

室内におかれたシャワーチェアに座っている

家主に

かなり接近しても

肩をたたくまで気が付かないのに

 

「お宝」の部屋を見せて満足したのか

杖もつかずに

よろよろと台所へ向かった

 

六畳ほどの台所には

その雰囲気には見合わない

最新型の大型冷蔵庫が置かれている

水屋には大量の食器が収納され

やはりここにも

段ボールが直置きに積まれ

品物たちは買い物袋に入れられている

 

ガスコンロの前に

座面にタオルを巻きつけた年代物の椅子を置き

家主は食事を始めた

一度炊いたご飯に水をかけレンジで温めた

やわらかいご飯に

家主が作り置きしていたであろう

厚揚げと魚の煮物

冷蔵庫から出して冷え冷えの状態のまま

それらを

ガスコンロの上に並べた

 

何度再利用したのだろうか

という割りばしを使い

歯もない状態で

もりもり食べる

 

そして

時折思い出したように

 

「あんた

 あの人たちに見覚えはないね?

 私

 警備会社を頼もうかと

 思っている」