霧雨でメガネは曇り、雨と汗でグシャグシャになりながら、神社から続く坂道を駆け下りていく。そして、昨日の自分を振り返っていた。
昨日は朝からイライラしていた。はっきりと原因を探さぬまま、自分の気持ちに気づかぬふりをしてやり過ごした。そういう時には、大抵、我慢が効かなくなり、口から感情が溢れでてしまう。
「溜めてたらだめよ。吐き出さなきゃ」
そう上司に促され、当たり障りのない理由を口にする。あなたの言動に心乱れるのですなんて言えるはずもない。心にも無いことを適当に話しながら、やはり自分の受け取り方がいけないのだと気付く。上司は何も悪くない。むしろ、イライラすることなんてない仏様のような方なのだ。下心などない純真無垢とはこのこと。自分に余裕がある時は、そう思えるのだから、やはり私の問題だ。
適当な理由にも真摯に助言してくださる。どうすれば良いかなんて、自分が一番分かっている。ただ気持ちの整理がつかないだけ。でも、親身に聞いてくださるので、ますます自分に罪悪感を感じる。
ただ、こちらの相談から始まったはずの話は5分もしないうちに、上司の話へと切り替わるのか常だった。昨日は、10倍返しにも感じた。
いつのまにか、上司のお客様の話になり、上司の家族の話になり、最後には
「私も悩みを聞きながら、自分の話もできてストレス発散になっているのよ。」
確信犯…
これだ。だから、上司に相談しようと思えなくなっていたのだ。私の話は最初の5分、以降は上司の話1時間コース。ただ聞いてもらえる間は、申し訳ない程ありがたいのだが、必ずと言って良いほど、早い段階で上司が話を持っていき、こちらが聞き役となり、大概不完全燃焼のままだった。
それで良い。
こちらからの話題でも、上司が気持ちよく話してくだされば、きっとそれで良いのだ。満足して下されば、聞きがいもあるというもの。聞いてもらって申し訳ないと思うより、気持ちよく話してもらって良かったと思う方が気も楽だ。
こちらから話し出したため、同じ話の繰り返しになっても、パソコンのキーを打つこともできずに、ただただ相槌を打つのみの1時間。途中から私のイライラなんて、どうでも良くなる。大した問題でもなかった。
やはり自分が変わるしかない。
いつものランニングコースから帰り着く頃には、たくさんの雨を含んだ重そうな雲が低い位置に浮かんでいた。白黒付けずに、この曇り空のように、灰色でいた方が良い時もあると思うと、雨空にも親しみを感じるのだった。