味覚の秋。
毎年、上司の隣人がおすそ分けしてくれるという栗を、今年もいただいた。
「もらってもどう料理すればよいか分からないからさ、もらってくれると嬉しい(訳:また渋皮煮作ってね)」
ありがたくいただいて、昨年も上司に好評であった渋皮煮を作る。今年の栗は鬼皮が剥きやすく渋皮を傷つけずに艶々に仕上がった。作りながらつまみ食いする。美味しいぞ。
翌日、大げさなほど喜んで食べてくださる上司。栗談義にも花が咲く。美味しいと食べてもらえると、やはり嬉しいものだ。
翌々日、今年4月に入職された自称”新参者”の年上同僚男性に(同僚というよりは経験豊富な先輩なのだが)も、渋皮煮を勧めた。
「いやーーー。
俺、いいっす。本格的なの苦手なんっすよね。いやぁ、いいっす」
両手のひらをこちらに向けて遮り、顔を逸らして、驚くほど大きな声でそう言われた。(その時の私には大きな声に聞こえた)
冷蔵庫に入った渋皮煮のパックを見る前からの全否定。
「そうですかぁ、
ただ砂糖で煮ただけですけど。美味しいのになぁ。じゃぁ、奥さんにどうぞ」
冷蔵庫の扉に手をかける間もなく
「いやーー、嫁も食べませんよ。たぶん。
俺、おこちゃまだから、前にもらったプリンも実は苦手なんっすよね。口がプッチンプリンに慣れているから、本格的なの好きじゃないんっすよ」
「はぁ。そうですか。
じゃ、〇〇さん(上司)に明日食べてって言っておいてくれます?」
「了解っす!」
なんだか釈然としないモヤモヤした気持ちで帰路についた。なんだ?この悲しい気持ち・・・。
もしかして、これって親切の押し売りなのかも。”新参者”さんに頼まれてもいないのに、食べてくださいって一方的だった気もする。でも上司にだけ渡すってのも何だか何だし。
”新参者”さんの嗜好はまだ分からない。人物自体把握できていないから当然だ。第一、そのあたりまで把握する必要はないのかもしれない。仕事上の関係なので。
ゆえに、”新参者”さんは悪くない。(良い悪いの話でもないが・・。)逆にはっきりと拒否してくれたから今後は、おすそ分けは遠慮しておこうという対応法が分かった。付き合い方、距離感とでもいうのだろうか。
私の方は・・・
上司にいただいた栗でもあり、美味しくできたし、そんな気持ちを共有してほしかったのだと思う。そして、もらってくれて当然というコアビリーフが働いたということか。それが見事に外れて、こちらの気持ちを共有してもらうこともなく全否定され、逆に”新参者”さんの気持ちを投げかけられ、それを無条件に受け入れなければならず、自分の思う通りに事が運ばずにモヤモヤが残ったと分析する。
いやまてよ・・・
”新参者”さんと同じようなことを私もしていたかもしれない。
訪問先のお客様からお菓子を勧められる場面がある。基本的に頂き物なんてしてはいけないことであり、丁重にお断りするようにしている。がしかし、特に高齢の方は、一度出した物を引っ込めることができず、いただかないと失礼にあたることもある。さすがに、小さなゴキブリが大量にいるお宅で、いつの物か分からないコップに注がれた飲み物を勧められると、身の危険も感じるのだが・・
そうか
あの時のお客様の気持ちってこんな感じなんだ。
はなから「いただけません」って全否定されると、こんなに虚しい気持ちになるのか。
どのような断り方が相手を傷つけないのか?
断り方以前に、「あなたにあげたい、もらってほしい」という気持ちが満たされることが重要なのかもしれない。そのもの自体が何かというのは大した問題ではないのかも。
今回の場合で考えると、私のベストアンサーはこうだ。
(渋皮煮を見て)「わぁ、艶々していて美味しそうですね。私にもいただけるなんて本当嬉しいです。でも、実は私、甘いものが苦手でして・・すみません、せっかく分けていただいたのに。でも、ありがとうございます、そのお気持ちだけいただきたいです」
って感じだろうか・・
あくまでも、こちらの一方的な感情ではある。今回も”新参者”さんは、私に当て逃げされたようなものだ。申し訳ない。
その時、なぜモヤモヤしたのか?
あの時、なぜ頭に来たのか?
一呼吸おいて他人事のように分析してみるもの悪くない。
渋皮煮ショックは全治2日と診断する。一晩寝れば気持ちも納まるだろうから。以後、気を付けます。