3か月に1度、通勤路にある歯医者へメンテナンスに行く。今や常識ともいえる予防歯科というもの。
歯科医師の男性は脂ののったアラフォー世代で、おそらく私とそう変わらない年頃だ。1人で4~5人の歯科衛生士さんたちと診療にあたる。個人のデンタルクリニックで診察代は4台ある。
先生は、いつ行っても元気よくあいさつされ、診療終わりには決まって「オッケー!!」と掛け声付き。とても気の利く先生で、クリニックの掲示物や置物にも配慮を感じる。いわゆる、今風のそしてかなりアグレッシッブな感じだ。
あまりにも先生が気が利くものだから、歯科衛生士さんたちの至らない部分に目がいかれるのだろう。診察台に寝っ転がっていると、細かいダメ出しも半端なく聞こえてくる。
「〇〇さんお通しして」(明るい感じで)
「それ、こうしたほうが良いよ」(決して否定しない)
「はい、次はこれね」(あくまで優しく)
「ん?〇番さん今どうしている?」(少し不信感)
「お通ししたら次の事、しなきゃ」(多少の苛立ちが隠せない)
などなど。
居酒屋並みに注文が多い。でもそれ等は素人の私でも、確かにそうした方が効率が良いし、患者さんも気持ちよいよなと思えることばかり。
しかしアラフォーの私には通じても20代の衛生士さんたちには、少々厳しいのかもしれない。
3か月おきに行くたびに、面白いほどに衛生士さんが入れ替わっていることに気づいた。
その日もいつもの先生の診察を終え、衛生士さんがブラッシングに入る。初めて見る衛生士さんだった。
何も言わずに診察台の背をたおされる。
(ん?)
何も言わずに歯ブラシを口に入れ、力強いブラッシングスタート。
(ん?)
彼女がイラついているのが歯ブラシを通して伝わってくる。
歯ブラシと反対側の口内にいれた鏡で、ガッと口を開かれる。
(そんな引っ張ったら痛いって)
同じところばかりブラッシングされているような気もするし、先生に指示されたからポーズとして歯にブラシを当てているだけのような気もする。先生の目の届かないこの状況では彼女の思うがまま。
他人に口を大きく開けて無防備な姿勢でブラッシングを受ける。
もし彼女が心変わりして、急に歯科衛生士職を放棄してしまったとしたら・・
無防備な私はいちころだ。
いつ喉の奥に器具を突っ込まれ殺害されるとも限らない。
うがいの水を口腔内奥深くに一気に流し込み窒息してしまうかも。
キーンってする器具で健康な歯を削られたらどうなる?
薬品を顔面にぶちまけられるなんてこと。
少々妄想が過ぎた・・・
歯科衛生士と患者という危うい関係性で成り立っているが、コロナ禍の今、何があっても不思議ではなく、新しいものを受け入れた者だけが生き残れるのかもしれない。
歯科医だから安心なんて、幻想にすぎないとしたら・・・
でも歯は自分で治療できない。
ならば、基本は予防歯科だ。虫歯にならなきゃ良い。
恐怖のブラッシングタイムを終え、会計で彼女に向かい合った時、おつりのやり取りから、ただ単にサバサバした性格なのかもと感じるに至った。
マスク着用に慣れてしまい、歯ブラシの時以外はなかなか鏡で歯まで見ることはない。虫歯にならないように、歯周病にならないように、しっかり自己管理していこう。人間って一人じゃ何もできないな。