一瞬で目を奪われた。
土曜の朝一に国道から1軒入ったお客様宅へ訪問した時だった。狭い駐車場に何とか車を停めて玄関に向かって路地を歩いていた。
朝も早いため、いつも人通りなんてないのだが、その日は人影が視界に入った。
一瞬で目を奪われた。
細身の体に、長い脚線にフィットしたボルドーのスキニー?いや、ウエスト部分にベルト通しは見当たらず、伸縮性のあるゴム仕様にも見える。レギンスの見せてはならないウエスト部分のような気もするが、トップスをしっかりインして着用。生地の質感からベロア生地に見受けられるが、初夏に着るものでもないし。
トップスは体にジャストフィットした黒の長袖。袖はスケスケの花柄レース仕様で、胴体部分は下の花柄の生地が、薄い黒の生地から透けて見えるようだった。
髪は肩まであるウルフカットと表現してよいのだろうか。長さがあり、ざっくりしている。
足元は確か草履だったような気がする。
男?女?
こんなピタッとフィットした服で、夏場にもかかわらず長袖で、黒にボルドーの組み合わせときた。
その姿は、ミュージシャン?アーティスト?といった雰囲気。この時間帯に、この地域には不相応というより、時代を間違えたのではとさえ感じた。
胸はないようだ。男性かも。
外見もしかり、その人物からあふれ出てくる「気」というか「オーラ」なのか、とんでもない存在感を感じて、数秒ではあったが釘付けになった。
(なんか、いいな・・・。)
通りすがりの彼の背中を見送って、訪問先で面談を済ませる。30分後、駐車場に戻ると、また彼に出会った。
パンパンの白い買い物袋を4つ両手に下げ、少し離れたところを歩いていた。
(やっぱ、いいな・・・。)
どこの誰かも知らない、いくつなのか、性別も定かではない彼から放たれる雰囲気にのまれ、またも数秒目を奪われる。急いで車に乗り、行き先が同じ方向だったのでゆっくりと発進した。
マンションに入る前に、彼はちらっとこちらを見たようだった。これだけ、熱い視線を送られたら嫌でも気が付くだろう。
私があと5歳くらい歳を重ねていたら、車の窓を開けて「そのファッション、いいね。素敵だよ」と声をかけていたかもしれない。それくらい、私には刺激的だった。
(好きな服を着てもいいし、好きなことをしてもいい。自由でいいんだ!!)
見ず知らずの彼に出会って、固くなっていた心が少し解けた気がした。
心も軽くなったところで、次の訪問先までの車中では、Killer Queen♬を口ずさんでいた。自由でいいんだ!