猫の額ほどの自宅の花壇にブーゲンビリアを植えている。
その成長速度は凄まじく、数日目を離すとメートル単位で枝を伸ばしてくる。
紫色の奇麗な花をつけ、枝を切ると南国を感じさせるトロピカルな香りが漂う。
しかし、電線に触れるほど伸びてしまっては放っておけない。
とにかく天高く枝が伸びるため、どの枝を切れば良いものか。
手あたり次第に根元近くの枝を切り、引っ張るが、その枝には、バラよりも大きくて鋭いトゲがある。軍手にゴム手袋をはめ、用心するのだが、どうしても手に刺さる。とにかく、痛い。
道路側から作業していると、通りに面した数十メートル先のお宅に住む認知症のおばあちゃんがやってくる。
一人暮らしのおばあちゃんは、いつも話し相手を探していて、自宅前の通りに出ていることが多く、人影を見つけるとすかさず駆け寄ってこられるのだ。
こちらの作業はお構いなしに話続けられるものだから、作業が進まず困ってしまう。
その日も、ブーゲンビリアの枝の隙間から、おばあちゃんがこちらにやってこられるのが目に入った。話し相手になる気持ちの余裕がなく、作業を中断し身を隠した。
おばあちゃんをやり過ごし、手にトゲが刺さりながら、枝を短く切りごみ袋に入れた。
まるで死体を切り刻んで処理しているようだなんて考えながらの作業。1.5メートルはある太い枝が1本残り、瑞々しく切ることができずに放置し後日切ることにした。
数日後、太い枝の存在を忘れて花壇で作業していると、瑞々しさは失われているが、まだしっかりと大きくて固いトゲのついた太い枝が、頭の上から倒れてきた。
痛い。
左頬に5センチほどの切り傷を負った。
あの日、おばあちゃんのお相手をしなかったから罰があたったんだ。きっとそうだ。いつまでたっても私っておバカだな。と反省しきりだった。
傷跡が残らなければ良いのだが。