今年も
世間では夏休みが始まった
それまでの長雨が嘘だったように
空高く入道雲が現れ
車窓越しにも
日差しは痛みを感じるほど
日中は外を歩くことも憚られる
もう日傘なしには
一歩も外を歩けない
洗濯物は半日で乾き
少し動いただけで
玉のような汗が噴き出してくる
早朝から
ラジオ体操に向かう子供たちの声
通勤時間には
制服姿の子供たちの姿はなく
その代わりに
児童クラブに通う
水筒を斜めがけにした
子供たちの姿が
ちらほら
遠い昔の夏休みのこと
共働きであった両親と
年の離れた姉二人
と小学生の私
当時は
児童クラブなんてものもなく
高学年になると
1人で気ままに留守番して過ごしたが
低学年の頃は
父方の叔母宅に預けられた
昭和の香り色濃い
石畳の細い坂道
車は通れないほどの細道が続く
側溝には
小さなカニたちがいた
沢カニというのだろうか
海からは少し離れたところだったので
不思議に思うものだった
民家の石垣は
粗削りの石を積み上げてできていた
少し苔がはえており
景色に色を添えていた
唯一のバス通りの数十メートルの間には
魚屋さんや下駄屋さんがあった
なぜか
衣料品店の道路際には
いつも
水が湧き出ていて
大きな樽からあふれていた
そのバス通り沿いに
(バス通りと言っても日に1~2本なのだが)
「せんべいや」
と呼ばれる老夫婦が営む
駄菓子屋さんがあった
100円を握りしめて行くのが楽しみで
チラシを折って作った
店主手作りの袋に
大きくて平べったくて丸い
えびせん
を入れてもらうものだった
手の水分がない店主は
親指をペロッと舐めて袋を開けた
衛生面なんてお構いなし
当時はそんな発想もないし
違和感なく
えびせんにかぶりついた
店内はコンクリートの床で
引き戸を開けると目の前には
腰の高さまである
2畳ほどの畳間があり
そこに
色々なくじ引きの駄菓子が並んでいた
まさに所狭しと並んでいた
なかでも
くじ引きの番号が貼られた
スーパーボール
それらは店主の横に吊り下げられ
一等はやたらと大きく
五等あたりからなくなっていた
本当に一等が入っているのだろうか・・
店主は
畳間から続くガラス戸の奥の居間から
来客に気づくと
そろりと出てくる
そこに正座してくじ引きをする子供を見守る
早くしろともなんとも言わずに
ただただ見守る
高価なアイスを1本買うよりも
数十円のくじ引きをたくさんする
そして
店主手作りのあの袋にいれてもらう
それが楽しみで
叔母宅へ来た際の一種の醍醐味でもあった