satoimo's diary

人生も折り返し地点を過ぎた。自分を大切にするためには...

ネコ化

モニタリングにあたっては、少なくとも月に一回、利用者の居宅を訪問し、面接することにより行わなければならない

という法的根拠に基づき、居宅ケアマネの私は、毎月お客様宅を訪問させていただく

 

 

急な坂道を登り切った

古い住宅街の角地

庭には季節の草花が植えられており

何故だか屋根の雨どいに生息している草たちさえ

お洒落に見える

築年数は大分たっているであろう

洋風な雰囲気もある木造平屋建ての一軒家

 

門扉や裏の通用口の柵にも

しっかりと南京錠がかけられている

(お母様が外に出られると危険なため)

訪問時間のみ

南京錠は開錠され

玄関の引き戸を数センチ開けていてくださる

 

門扉から玄関まで3メートルほど

玄関ポーチには箱に入ったままの

大量の猫の餌が置かれている

壁際のお洒落な緑が目を引く

 

引き戸を開けると

そこにも猫の餌

 

壁は深い茶色の板壁で

なかなか雰囲気が良い

新しくはないが使い込まれたお洒落な家具たち

 

居間と台所の扉は取り払われ

庭の掃き出し窓から見える緑から台所までの広い空間

壁に飾られたフジコヘミングの絵たちが

その空間に趣を加えている

 

重厚感のあるレトロなソファーに

いつも腰かけて迎えてくださる

お母様

 

娘さんに

台所側の椅子に腰かけるよう促されるのが

いつもの風景であった

 

このお宅は

要介護認定を受けられたお母様と娘さんの2人暮らし

加え

20匹を超える猫たちが暮らしている

 

迷い猫や捨て猫など保護しているうちに

20匹を超え

うわさを聞きつけてか

自宅前に猫を置いて行かれることもあるとか

猫たちのために専用の出入り口を設け

猫たちはいつでも自由に行き来できる

 

大概猫というものは

他人が来ると姿を見せないと聞く

猫の餌や水がいたるところにセットされているため

猫たちの存在は確かなものだと思っていたが

訪問時には姿を見ることはなかった

あの日までは

 

いつものように訪問した曇り空の日

門扉をそっと開けると

玄関ポーチに白と黒のブチ模様の猫がいた

そこから動く様子もなく

尻尾を踏まないよう気を付けて引き戸を開くと

先に家の中へ入っていった

 

レトロなソファーに横になっていたお母様の足元には

少し小さめのきじ猫が丸まっている

 

台所側の椅子に腰かけると

猫専用の出入り口から

大きいふさふさの毛並みの猫が入ってきた

 

いつもなら

姿も現さないのに

どうしたのだろう・・

 

娘様のお話を聞いていると

玄関から一緒に入ってきたブチ猫が足元にすり寄ってくる

なにか話しかけるように

か細い声で

にゃーにゃーと鳴きこちらを見ているようだ

何気に目が合う

 

特に

猫が好きでも嫌いでもない私は

されるがままになりながら

娘さんの話に耳を傾けていた

 

どうも視線を感じて

何か私に話があると言わんばかりに

まるでビー玉なような瞳で訴えてくる

 

確かに目の前にいるのは

たった今そこで出会ったばかりのブチ猫

だが

不思議なことに

猫というより意思を持った人間にように感じた

誰かがその猫になって

私に訴えかけているような

初めての感覚だった

 

しばらくすると

隣の椅子に音もなく飛び乗ってきた

そしてまた

ビー玉のような瞳で見つめて

にゃーにゃーと話しかける

 

「誰だっけ?

 あなた私に言いたいことがあるの?」

思わず口にする

 

慣れた様子で娘さんはブチ猫を床に下し話を続ける

娘さんが印鑑を取りに席を立ったとき

少しこちらの様子をうかがうように

そっと右足を私の膝の上に置いてきたブチ猫

 

まさか座るのか?私の膝に?

 

子供が小さいときに

何気なく膝の上に抱っこされに来ることがある

それと同じように

ブチ猫はまんまと私の膝の上に乗ることに成功し

そこに身を置いたのだった

 

この猫と

知り合いだったのかな?

どこかであったっけ?

だとしても猫・・・

いや人のような気もする・・・

 

「もうごめんなさいね

 人が来るといつも逃げるんだけど

 どうしたんだろうね」

 

「いえ 大丈夫ですよ」

 

ブチ猫に後ろ髪をひかれるように

職場に戻った

 

別段

猫が大好き!というわけでもないのに

どうしたんだろう?

 

翌日

またも猫を飼っているお宅の訪問だった

長男夫婦と娘さん、お母様の4人と

犬1匹と猫3匹暮らし

お嫁さんが動物好きなようで

保護猫の活動もされているとは聞いていた

 

ソフトバンクのお父さんのような白い犬は

訪問時に姿を見ることもあり

私のバッグの匂いを嗅ぎに来ることもあったが

猫3匹の姿を見たことはなかった

あの日までは

 

ブチ猫と出会った翌日だった

いつものように居間に通されお話を伺っていると

2階から

トントントントン

右足を失った白い猫が降りてきた

歩行のバランスは悪いが

しっかりと自分の足で歩いていた

 

「わぁ 珍しい

 みーちゃん降りてきたの?

 いつも人が来ると絶対に降りてこないのにね

 好きな人はわかるのかな?」

とお嫁さん

 

何度も繰り返すが

私は別段猫が好きなわけではない

もちろん嫌いなわけでもない

 

お嫁さんに抱っこされながら

こちらの様子をうかがっているようにも感じた

 

すると

台所の奥から黒い猫がもう1匹顔を出した

 

「この猫は目に水が溜まってね

 片目が見えないんですよ

 まぁ 出てくるなんて珍しい」

 

私ネコ化してきたのか?

猫が好き好きオーラを出しているつもりは微塵もない

意識もしていない

 

前日といいこの日といい

確かに猫たちは私に語り掛けてくる

そんな気がしてならないが

その内容は分からない

 

ん~

謎である

心当たりもないのだから

 

しばらく様子をみることとしよう