昔という言葉には抵抗があるが
以前は
よくお菓子を作るものだった
ネットなんてない時代には
お菓子の本を広げて
または手書きのメモを見ながら
基本のクッキーから始まり
ロールケーキにシュークリーム
成功して満足いく仕上がりになるまで
何度も何度も作り続けた
大人になると仕事に追われ
生活に追われ
お菓子を作る余裕がなくなっていき
いつしか
お菓子を作ること自体
忘れてしまった
母親になってからは
子供達が幼い時分に
一緒に作ることもあった
どんぐりを拾い集めて砕いて焼いた
どんぐりクッキーは
なかなか面白かった
そして最近
久しぶりに
マフィンを焼いた
年単位での久しぶりだ
奮発して買ったバターを
生地に混ぜ込む
マーガリンとは流石に仕上がりが違い
バターが高値なのも仕方がないと納得する
180度のオーブンで焼きあげ
その扉を開けると
なんとも芳醇なバターの香りが
部屋中に広がる
なんて
幸せな匂いなのかしら！！
こんがりと焼けた香ばしい匂い
マーガリンでは醸し出せない
バターならではの匂い
焼き立ての温かい匂い
しばらくは
このバターの香りが部屋中に漂い
なんだか
とても幸せな気持ちだった
部屋も心も温かくなったようだった
お菓子作りは
私にとってストレス解消であり
心をリセットさせてくれるものだったことを
思い出す
心に余裕がない時こそ
贅沢な材料を使って
丁寧に基本に忠実にお菓子を作る
不思議と
心も穏やかになり
細やかな幸せを感じることができる
行ったり来たり
忘れたり思い出したり
忘れてしまうことの方が多いのかもしれない
やろうと思えばいつだってできるのに・・
匂い
マフィンの焼き上がる芳醇なバターの匂い
ご飯の炊き上がるふっくらとした匂い
換気扇から流れてくる焼き魚の芳しい匂い
パン屋さんのイースト菌の発酵した匂い
干した布団の太陽の匂い
洗濯物の柔らかな匂い
桜咲く春の甘い匂い
新緑の季節の草木の青々しい匂い
いっぱい遊んだ証拠の子供の頭の匂い
赤ちゃんの優しいミルクの匂い
学校帰りの制服の匂い
お風呂上がりのシャボンの匂い
目には見えない
匂い
匂い一つで
こんなにも心穏やかに
幸せになれるなんて
私って
とても幸せだ
