ケアマネの私とオフの私の日記

書くことで気持ちの整理をしていきたい。。

王様の耳はロバの耳

「王様の耳はロバの耳!!!」

 

井戸に向かってそう叫びたくなることが月に数回ある。(近所に井戸がないのは残念だ)

居宅介護支援のケアマネは毎月1回以上、お客様宅を訪問し、介護サービスに支障はないか、生活でお困りはないかなど面談を行うのが務めであり、それはご家族とも面談するということである。もちろん、お互いに人間であり、合う合わないの相性の問題もある。そこは仕事として割り切るようにしている・・つもりではある。

 

同じ地域に住んでいても、同じ家族構成でも、各々の人生があり、その家族の関係性も驚くほど異なる。同じデイサービスで同じ時間を過ごしていてもだ。何をもって幸せな状態なのかも各個人で異なるため、こちらが判断することではない。

 

2年程支援させていただいている軽い物忘れが出現し始めた女性は、当初、長男妻からの依頼が始まりだった。

 

「義母のことについて、夫(長男)が私に、ありがとうと言ってくれないんです。私、もう何のために頑張っているのか・・。病院の先生から、そういう家族のこともケアマネに相談しなさいって言われたものですから、ケアマネさんから夫に言ってください。夫は、私がいくら言っても変わってくれないんです」

 

それから、毎月、本人の面談は30分、その後別室での長男妻の面談は1.5時間を要した。

時には孫(長男の娘)も同席し、父(長男)を説得するように促された。父は何もわかっていない、母がかわいそうだと。

 

長男妻と長男との、そもそも介護へ対する考えが異なり、長男としては現状で不足はないとの認識だが、長男妻にとってはもっとこうしてほしいとの思いが強く、妻の思うような介護をするように長男を説得ほしいというものだった。その時点で、長男妻側に立つのも違うと感じながらも、毎月、涙ながらに夫(長男)への不満をただ聞くことしかできなかった。本来ならば、家族間で介護の方向性を統一してもらい、それにそった支援をするものだと考えており、本人を支援する家族だからといって一線を越えて夫婦間の問題に意見する気にもなれなかったし、職域を超えることはできないと思っていた。

 

ある日を境に、長男妻は一切口を開かなくなった。面談の場に同席されるが、話を振って「何もありません」とうつむきかげんに一言。本人、長男、長男妻、ケアマネと息の詰まる面談が続いた。おそらく、長男に任せて身を引こうとされているのだろうと感じてはいた。

 

数日前、面談の日に長男は急用のため不在。長男妻のみ同席となった。いつものように近況を尋ねる。

 

「あとで、別の場所でいいですか」

 

数か月ぶりに、口を開いた妻は2時間近く話し続けた。夫への不満や、結婚当初から義母に辛く当たられていたこと、借金もろとも事業を引き継いだこと、自分の生い立ちなど。途中、口をはさむことなくただただ頷く。

 

「途中で、ケアマネさんに話しても私の気持ちは分かってもらえないんだと思ったのもあって、身を引こうと思ったんです。」

 

「・・・」

 

「ケアマネとしては、介護の方向性は家族間で話し合い統一して示してほしい。それをもって支援をしていくのが私の仕事であり、夫婦間の問題に介入はできない。その上で、個人的な意見を言わせてもらえば、奥さんが思うような介護を夫がしてくれないことが不満なのだろうが、夫には夫の考えがあるだろうし、理解し合えるまで二人で話し合い、妥協点を見つけるしかない。感謝の言葉もない、ありがとうと言ってほしいとは、夫にそう認められるために介護をしているということか?義母への思いはなく、夫の手前と解釈するが、それを認めることはできるのか?30年以上一緒にいる夫の性格は、奥さんが一番理解しているはず。介護に託けて夫へ変わってほしいなんて、第三者の言うことなら聞くかもなんて、ケアマネは人生相談のラジオパーソナリティーでもない。大変な間違いだ。義母の介護はただのきっかけで夫婦間の問題でしょう。そもそも、義母は今の状況で生活に困っている様子もなく、むしろ、息子夫婦が隣にいて幸せと話されてる。

多少部屋が汚れていても、栄養を考えずに夫の与える菓子パンを食べていても、現状の夫の支援で満足しているのでは?自立支援もごもっともだが、それは奥さんの自己満足に過ぎないでしょう?奥さん、どうしたいんですか?奥さんの都合の良いように世界は回っていませんよ。そんなの、よくお分かりでしょう?何が一番、大事なのですか?これ以上、話してくださっても、奥さんの希望通りの返答はできないと思います」

 

そう言いたかった。

 

「たまっていた愚痴を聞いてもらって、すみませんでした。私はこんな感じですので、来月も面談には同席しますが、喋らないと思うのでそのつもりでいてください」

 

「・・・」

 

「そのようなお考えなら、面談に同席していただかなくて結構ですよ。あの重たい空気は、本人も感じているでしょうし、こちらも耐えかねます。介護に関わらないと公言される奥さんに同席していただいて何か意味がありますか?夫を監視されているようにしか見えませんが、夫が主介護者ですので、その方針で支援させていただきます。ご家族で統一したご要望がありましたら、そのように対処させていただけますので、まずは、しっかりと方向性を示していただきたいですね」

 

そう言いたかった。

 

仕事とはいえ、話を聞くのは結構な労力だ。入ってきた言葉たちや場の雰囲気を、体から吐き出さなければ蓄積して苦しくなっていく。個人情報保護や守秘義務がなければ・・・

 

深い深い井戸があったら、叫びたい。

「王様の耳はロバの耳!!!」

「ケアマネっていったい、何なの???」