ケアマネの私とオフの私の日記

書くことで気持ちの整理をしていきたい。。

害獣④ 急展開

勝手にしやがれ!!」

 

そう言い放たれた翌日だった。

近隣の有料老人ホームの一覧を見ながらのローラー作戦。一覧の上から順番に電話をかける。もう後戻りはできまい。彼女の気が変わる前に契約に持って行かなくは・・・。

 

しかし、数十件かけても満床又は、生活保護はお断りとの返答。

 

少々強引なのは承知で、現時点では診断名に認知症はないが、入所時の診断書に「認知症」の記載をもらえればグループホームに入所できる。特養には入れないし、老健でもないだろう、他に選択肢が見つからない。

 

訪問看護師さんを通して主治医に状況を説明。彼女の生活状況から長谷川式評価なんて実施できるわけもなく、しかし確かに短期記憶障害は感じられるため、まったくのでっち上げではない。そう自分に言い聞かせ、診断書に認知症の記載をいただけることとなる。

 

躊躇していられない、妹さんも高齢で入所迄長引くと体力的にも持たないだろう。第一、彼女もいつまたあなぐまに襲われるか分からない。そしてまたローラー作戦後、彼女の自宅近くのグループホームに1床空きがあるとの情報を得る。もうここで決めるしかない。自宅近くで妹さんの面会も行きやすいだろうし、彼女も安心してくださるかもしれない。

 

保護課へ連絡し、入所の方向で許可をもらう。妹さんも、少し驚きもされたが了解を得る。本来は、見学に行っていただき本人の了承を得て事を進めるべきところだが、今回は順番は逆でも致し方ない。

 

電話口で彼女の状況をグループホーム管理者さんに説明し、快諾を受けたが、あの自宅で面談となると入所拒否される可能性もある。彼女の基本情報を持参し、グループホームを尋ねようと、8月の炎天下の昼前に外に出た時だった。

最後の支援に入っていたヘルパーさんが「ケアマネさーん!」と走ってこられる。

 

「今、帰ってきたんだけど、今日こそは話をしないとと思って「もう私今日までです。虫に噛まれてもう来れません」と話したら、初めて聞いてくれたのよ。そして、「入所しませんか?」って改めて尋ねたら「どこにありますか?いつ引っ越しますか?」って言われてね。びっくりよ。本人もその気になってる。2日後に面談予定ってきいていたからそう伝えたら、頷かれたのよ。あぁ、神様、風はこちらに向いているのね。早く言いたくて急いで帰ってきたの」とヘルパーさん。

 

良かった。彼女の口から入所に対して了解を得られたことに安堵し、2日後に面談をして、どうやって連れ出そうかと考えていたが、もうその足でお連れするしかない。

 

グループホームの管理者さんにも、今までの経緯を説明。2日後に妹さんにはホームに来てもらい、ヘルパーさんとケアマネで本人をお連れする段取りに協力いただけることとなった。入所に必要な品物の一覧をもらい、ヘルパーさんと購入する方向で午後からの支援を調整する。

 

何が何でも今日中に、ここまで進めなければ・・・。

 

だが、彼女の金銭管理をしている民生委員さんが会合で留守のため、購入費用がない。ヘルパーさんも、もう必死になっており

「施設に立て替えてもらおうか?給付金が10万はいっているはずだからさ」

「・・・」

「もう、今日しておかないと当日はバタバタするよ」

「ん~。でももしお金がなかった場合、怖いですよね。危ない橋を渡るのはやめておきましょう。バタバタですが、当日、何とかしましょうよ」

「それもそうね、ここまできたんだからね」

 

その間にも保護課や妹さん、事業所と連絡をしながら通常業務も行い、椅子に座る間もない。やっと、ここまで来た。あと一息。落ち着いていこう。

 

夕方、訪問看護師さんから電話が入った。その日は通常の訪問看護支援日であった。

 

「今、自宅に訪問しているのですが、熱が38度近くあって、脈も速くSPO2は92、熱中症かも。本人も助けてくださいと言っていますが、入院させますか?」

「医療が優先です。看護師さんの判断で良いので、そうされてください(本来、ケアマネには何の権限もないが尋ねられ思わずそう返答する)」

「分かりました。今から救急車を呼びます」

「お願いします」

 

急展開・・・

 

エアコンのない隙間だらけの部屋で肌着一枚と扇風機で、虫刺されの真っ赤な体で毎年夏を乗り越えられてきた。アナグマに噛まれても感染症にもならず、治癒された。褥瘡を繰り返しながらも、特別な治療はせずに何とかやり過ごしてきた。今までも何度でも入院のタイミングはあったが、ことごとく本人が拒否されてきた。

なのに今。

 

ここへきて救急搬送とは。

 

2日後にグループホーム入所を前にして、自ら入院を希望されるとは。

 

なんとも彼女らしい。一筋縄ではいかないとはこのこと。

 

「入院している間に入所の準備もできるし、病院でお風呂に入って綺麗になって入所した方が、相手方にも良いじゃない。プラスに考えよう。良かったね」

そうヘルパーさん。

 

確かに、通常の訪問看護支援がなければ、夕食の弁当配達員が第一発見者になっていたかも。彼女からすれば、願ってもいない展開だったということか。

 

「入院期間はまだ主治医が決まらないから未定ですが、前みたいに無理やり退院したいなんてならないことを願っています」と訪問看護師さんより電話が入る。

 

方々に連絡し、入院に際しての情報提供書を病院へファックスし、今日1日の支援経過をPCに入力した。

 

1日で、まさかの急展開で想定外ではあるが、ここで気を緩めることなく、もうあの自宅に戻ることはできないのだから、最後までしっかりと支援していこう。そう決意を新たにしながらも、ケアマネジャーって何なんだろうと自問自答していた。独りよがりにならないように、何のために支援をしているのかを冷静に考えながら挑む必要がある。

 

あと一息だ。