satoimo's diary

人生も折り返し地点を過ぎた。自分を大切にするためには...

彼女

「思春期の子供にそんなこと聞くもんじゃない」

 

高校生になった彼とは益々一緒に過ごす時間はなくなり、顔を合わせると言い合いになることも多く、互いに極力距離を置いて過ごしていた。見守ることは時に無関心とも感じられるので難しいところだ。

 

私のシャチハタを隠し持ち、健康観察カードにこっそり押していても、苦手な教科は目を疑う点数を取っていても、お弁当の野菜をいつも残していても、あえて何も言うまい。

 

マイナンバーカードが出来上がった。

役所に取りに行くのは本人でなければならない。久しぶりに車に乗せて言葉を交わした。

 

「ぼく、クリスマスの日、遅くなるから」

 

「あら、そう。今が一番楽しい時だものね。行っておいで。ただ、警察沙汰とコロナにだけは気を付けてね。君らの年代は数人集まると目立って見えるからね」

 

「おう。2人だから大丈夫」

 

「ん?そうなの。もしかして彼女と?」

 

「うん」

 

「そっかぁ。良かったね。行っておいで。ただ、彼女も遅くならないようにしっかりね。迷惑かけないようにするのよ」

 

「うん」

 

 

つい最近までは「思春期の子供にそんなこと聞くもんじゃない。ウザい」と一喝されていたが、この日は素直に話してくれたことに驚き、一人前に「人を好きになる」気持ちを知って、それに応えてくれるお相手ができたことが、とても嬉しかった。

 

つい最近までは、「女子なんて、ウザい」なんて言っていたのに、彼の中で劇的な心情変化いや進化・・成長?があり、ウザい女子を大切に思い、好きになる気持ちが芽生えたなんて、素敵なことだ。

 

つい最近までは、友達とオンラインゲームばかりしていておしゃれになんて無頓着だったのに、いつの間にか朝夕、ヘタすれば外出前と日に3回もお風呂に入り、美顔ローラーを購入し、さまざま化粧品や洗顔料、整髪料を多用し、美容雑誌を購入してたっけ。

 

どうやって出会えたのか、どんな所が好きなのか、どんな方なのか、気にならなくもない。

 

でも

彼には彼の時間や空間、世界があり、私が立ち入る必要はない。

 

いつか

話したいと思う時には、気兼ねなく話してもらえるよう、私も自分の時間を大切に過ごしていきたい。

 

ただ

彼女を傷つけることだけはないように、見守っていたい。

 

その日を境に、空のお弁当を出してくれるようになった。あれだけ言っても・・と、半ば諦めていただけに、待っていた甲斐があった。

小さな変化だか、私にとっては大きな喜びだった。

 

人を好きになる

 

好きな人のためにできる事を考える

好きな人の幸せを願う

好きな人のために自分も頑張れる

 

相手を思いやる気持ちが芽生える

 

好きになった分、苦しい事もあるかもしれない。それも含めて、成長していって欲しい。

 

彼の成長に反比例するように、私も歳を重ねてできない事も増えていくのだろう。 

 

まさに、体の水分量が失われて枯渇していく感覚。それは、悲しいことではなく、今迄の経験の積み重ねにより逆に心は満たされてゆく。身体能力は低下していくのだろうが、心は枯渇することなく、余計なものを手放して軽くなっていく身体を心地良くさえ感じ、自分にとって大切なものが明らかになっていく。

 

彼の成長を見守りながら

歳を重ねる自分を感じるのも

悪くない。