それは突然やってきた。
インフルエンザの予防接種は仕事柄毎年受けており、新型インフルエンザ以降、罹患したことはなかった。今年も、翌週に予防接種を控えていたある日、息子が熱発、その二日後に私も39度の熱が出た。
インフルエンンザA型。
まる二日間食事を取れず、トイレにも行かず、腰痛にうなされながらただただ寝込んで過ごした。水分も摂れないものだから、脱水で吐き気もする。残してきた仕事が悪夢のように朦朧とした意識の中で夢に出てくる。繰り返し、繰り返し。
三日目にして熱は落ち着くが、布団から起き上がることができない。このまま、社会復帰できないかもと本気で思った。食欲もなく、体を動かずエネルギーも筋力もない。
普段、自分が支援させていただいている高齢者の方が入院され、自宅退院する姿を想像した。やはり、どこかの段階で踏ん切りをつけて、布団から起き上がり、食事を取り、体を動かし、風呂に入りと段階的に進めていくしかない。身体はまだしんどいが、そうしないと一生起き上がれない気がした。もうそれでも仕方がないとさえ思った。一度寝込んでしまうと、こんなにも元の生活に戻るのがしんどいとは思ってもみなかった。自分が80、90になったとき、同じように元の生活に戻れる気がしない。
心と体はつながっているということも強く認識した。
熱が出て寝込んでしまうと、心も弱ってしまう。身体がしんどいと、思考も後ろ向きになる。逆に、知らず知らずにストレスをため込むと、体の不調として現れる。どっちがどっちなんだ。どっちもどっちか。すべては自分の中で起こっており、自分で立て直すしかない。
己との戦いとなったインフルエンザA型療養期間は5日間。
周囲への感染が危惧されるため、有休消化で休みをいただいたが、居宅ケアマネジャーは一人仕事であり、休み明けのデスクには、こいのぼりのうろこのように大量のメモが積み重なって貼り付けてあった。快く休みをいただける職場には感謝しかないが、休んだ間の仕事はすべて自分に降りかかってくる。
5日分の仕事をもとのペースに戻すのに1週間以上かかった。もうインフルエンザにはなりたくない。すべてのペースが乱れて、それを元に戻す体力はもう私にはない。
翌週、予定通りインフルエンザの予防接種も受けた。立て続けにB型にでも罹患したら、もう元の生活には戻れないと思ったから。
年々、弱っていく身体。膝は痛くて走れなくなり、たまに座骨神経痛が現れる、最近は目もかすんだり、思うように動けないことも増え、老化を感じずにはいられないが、その無理ができなくなってきている身体を、自分の弱さを認めることで、一種の諦めというか、できないから仕方がないなと少し自分にやさしくできるようになった気もする。お年寄りがよく「昔のようにさっさと動けない」と言われるが、今なら良くその意味を理解できる。それを、悲しいととらえて抗うか、仕方がないと受け入れてそれなりの生活にシフトするか。私は後者を選びたい。